ファッションにこだわりを持つ人たちの間で根強い人気のヴィンテージ時計。年代物ならではのクラシックなデザインには現行モデルとは異なる良さがあり、時には希少価値が高いものとの出会いがあるのも魅力です。
しかし、ヴィンテージファンの間では「味」と捉えられる特有の傷や汚れに、中には抵抗を持つ人もいます。そんな人にも年代物の魅力を感じてもらうべく誕生したのが、“新しいヴィンテージ腕時計”を販売し、アフターケアまで行う専門店「LE MIRAIS Collection」。
1960〜80年代のヴィンテージから現行モデルまで幅広い時計を扱っています。コロナ禍にも負けず成長を続ける同社を立ち上げたご夫婦にお話を伺いました。
■プロフィール
LERY(リリー)株式会社|代表取締役
金城龍之介(きんじょう りゅうのすけ/1990年生まれ)
2012年、トヨタカローラ大阪株式会社に新卒入社。新車販売部で営業職として新車販売や各種保険販売などを担当。入社1年目に新人営業スタッフ賞を受賞、2年目には全社の営業スタッフを対象とした最優秀営業スタッフ賞を受賞するなど高い評価を得る。
2015年に独立し、個人事業主として中古自動車の販売やメンテナンスを行ったほか、幅広いビジネスを展開。
2017年、LERY株式会社の代表取締役に就任。
LE MIRAIS Collection(リ ミライズコレクション)|代表
門田優香(かどた ゆか/1990年生まれ)
2009年、株式会社バロックジャパンリミテッドに入社し、同社のアパレルブランド「rienda(リエンダ)」にて6年間勤務。大型店の店長に就任したほか、市場調査やチームマネジメントなどを経験し、2015年に独立。
腕時計について独学で学んだのち、ヴィンテージ腕時計を販売する「LE MIRAIS Collection」を創立。
自宅の一室で創業した同社は順調に事業拡大を進め、LERY株式会社として法人化。現在はオンラインストアのほか、大阪・堀江に路面店を構える。
幅広い人に愛されるヴィンテージ時計を
ロレックスやカルティエ、エルメスといった高級ブランドの腕時計を扱う同社。ヴィンテージと呼べる年代物をモダンテイストに生まれ変わらせた時計を中心に販売しているそうです。
現在ご夫婦で経営されていますが、創業時は奥様がご自宅の一室で始めたのだとか。アパレルからキャリアチェンジされた当時についてお聞きしました。
門田さん
以前はアパレルで働いていましたが、服だけではなく、総合的におしゃれが好きだったんです。クラシックなデザインが好みで、ヴィンテージのアクセサリーなども好きだったのですが、そこからヴィンテージの腕時計にも興味を持つようになりました。
ヴィンテージ腕時計が好きな人は服などもレトロなテイストを好む人が多いと感じて、トレンドの服を着る人にも取り入れてもらえるようにしたいなと思ったのが起業のきっかけの一つです。ベルトを変えたり装飾をつけてモダンなテイストを加えることで、トレンドに敏感な女性にも興味を持ってもらえないかなと。
その当時はまだ24歳でしたが、起業することに抵抗はなかったです。アパレルの時はすごく忙しくて、猫を飼いたかったんですが、家にいる時間が少ないので難しかったり…。それでプライベートを充実させたかったのと、リスクを取ってでも独立して“裸の自分の実力で勝負してみたい”という思いがあり、アパレルを退職しました。
腕時計の事業を始めようと決意したきっかけは突然で、旅行で訪れた淡路島で車を運転していた時に、何故かふっと思いついて(笑)。翌日から早速起業に向けて動き始めました。
時計は好きでしたが、部品の名前など専門的な知識は全くなかったので、まず自宅近くの時計屋さんに客として足を運んで、そこの店主の方に沢山質問をしました。その方が協力的で、親身になって色々なことを教えて下さったんです。
今でこそ技術的なことは一級時計修理技能士の資格を持つスタッフに任せていますが、当初は自分一人で始めて、本当にゼロからのスタートでした。今から思えば、その時計屋さんでもかなり初歩的な質問ばかりしていたくらい知識が浅かったです。
日々勉強しながら頑張っていましたが、起業後徐々に一人では手が回らなくなり、約半年後に主人が経営に加わりました。法人化したのもその頃です。さらにそこから2ヶ月後には自宅の一室から弁天町のビルにオフィスを移転し、同時にスタッフを採用し始めました。
チャレンジしてリスクを背負った方がいい
全く知識がない腕時計の世界へ足を踏み入れ、思い切ったキャリアチェンジをした門田さんですが、1年足らずで法人化、オフィス移転と好調に歩みを進めてこられた印象です。
公私共にパートナーとなった金城さんは、トヨタで営業職として活躍していた中で門田さんと同じく独立の道を選んでいます。
金城さん
トヨタを退職する時、周りからは「本当にそれでいいのか」「新しいことを始めることに不安はないのか」と聞かれましたが、自分としては現状にとどまっている方が不安でした。
入社1年目から結果を出してはいましたが、トヨタの名前で売れるようなところは少なからずあったと思うんですね。その看板を外してどうなるかという不安はありましたが、ぬるま湯に浸かっているより、成長のためにチャレンジしてリスクを背負った方がいいと考えて、入社後3年ほどで独立しました。
中学時代から経営者になりたいと思っていたんですが、親も経営者でしたし、周囲に経営者の方が多かったので、そういった環境の影響も受けていると思います。
ただ、僕の場合は妻のようにとことん好きなものがあった訳ではなく、あくまで漠然とした夢でした。ビジネスモデルについて色々と考え続けていたんですが、なかなかこれだと思えるものが見つからなくて。
僕は大学時代は経営学部でしたが、正直真面目に勉強していた方ではなく、結構遊んでいました。そんな中でも心がけていたのは、成功している経営者と時間を共有すること。
そういう方の考え方とか行動パターンを見て、それを自分に当てはめてイメージしてみたり。その上で自分が同じようにやれるという自信は持てなかったんですが、こんな風になりたいという野望だけはずっと強く持っていました。
トヨタを退職後は1年ほど個人で中古車販売などを行っていて、その頃に妻も独立して腕時計のビジネスを始めていました。当時はまだ入籍はしていませんでしたが、すでに長年の付き合いで性格をよく知っていたし、ビジネスパートナーとしてふさわしいだろうとは感じていたんです。
自分と性格が正反対なので、お互いに補い合えると思いました。妻は一つのことを突き詰めて考えることができて、分からないことを調べることも得意。とてもマーケティング能力が高いと思うんです。
門田さん
主人は人と接することに長けていると思います。私はそういったことがあまり得意ではないんですが、察することが得意で、ちゃんと人と向き合える人ですね。
金城さん
そんな妻が起業した姿を見ていて、そのビジネスモデルやパートナーとしての相性なども加味して考えた時、成功するイメージしかなかったんです。
また、僕が扱ってきた車と、妻がビジネスを始めた腕時計について考えた時に、腕時計は商材として優れている要素が沢山あると感じました。
どちらもメンテナンスすることでまた使えるという共通点がありますが、腕時計は例えばロレックスを祖父から孫へ受け継ぐといったことがあるじゃないですか。
メンテナンスすれば100年以上保つので、車の寿命より遥かに長く楽しめるんです。そして何よりサイズが全く違いますよね。車は数台でもある程度広いスペースを必要としますが、腕時計は小さな引き出しにも収まりますし、ゆうパックなどで手軽に送ることもできます。
さらに、車と違って年数と共に価値が上がっていくという良さもあります。そういったことを総合的に考えた結果、このビジネスを一緒にやろうと思いました。
毎朝起きた瞬間から仕事のことを考える
学生時代からのお付き合いで、ビジネス上でもパートナーとなったお二人。現在のそれぞれの会社での役割や仕事への向き合い方を伺いました。
門田さん
現在、私は主にバイイングとマーケティングを行っています。トレンドを先読みして買い付けるための勉強はずっと続けながらやってきました。そういった中で希少なものも分かるようになったので、これまでの経験を元にレアな商品を買い付けています。
1日中、色々な時計を見るようになって何年も経っているので、商品を見る目が養われてきたと感じています。
仕事のスタンスとしては、より良いものをお客様に提供できるように、毎朝起きた瞬間から仕事のことを考えていて、そういう意味では完全にオフの状態はありません。
自由にやれてはいるんですが、オフの方が落ち着かないんです。プライベートの時も基本的に頭のどこかでは仕事のことがあるという状態です。
例えば客として飲食店などに行った時でも、お店の良いところと悪いところを見て、それが何故良いのか、悪いのかをビジネスの視点で見てしまうんです。こういったことを起業時は意識してやるようにしていたんですが、そのうち意識せずとも自然にできるようになりました。
金城さん
僕の業務は取引先との折衝やスタッフとのやりとりが主で、人事や経理、販売のフォローアップなども行っています。
商品をオンラインで購入して下さる方も多いんですが、文字だけのやりとりだとお客様の気持ちが分かりづらく、行き違いが発生しやすいんですね。
潜在的なニーズを汲み取るのが難しいというか。問い合わせの対応が的確でないと「もう買わない」となってしまうので、最終的な満足に至るまでしっかり対応しないといけません。そういったことを踏まえてお客様に対応するスタッフにアドバイスをすることもあります。
あとは創業時から意識してきたことがあるんですが、スタッフと話す機会をしっかり設けること。
定期的に面談を行うのですが、その時に自分の仕事に対して、結果が追いつかないことに悔し涙を流すスタッフもいます。弊社は至って自由な社風ですが、上昇志向の強いスタッフが多いんです。スタッフそれぞれが自分なりの課題を自ら見つけて頑張ってくれていて、面談はそういった意識を確認できる機会にもなっています。
スタッフに向けて大きく掲げているスローガンが、“創造して、進化し続ける”という言葉です。
毎月ミーティングで各自の目標を発表したり、講師の指導の元でビジネスマナーを学ぶなど、成長に繋がるような取り組みを行っています。そんな社内の取り組みもあってか、1年前とは別人のように成長したと感じられるスタッフもいます。
ちなみに、先ほど妻がオフはないと話していましたが、スタッフについてはオン・オフのメリハリをつけられるようにしています。
勤務時間は本社、店舗共に1日8時間勤務。役職があるスタッフは残業してでも仕事をやり切ってくれていますが、一般社員は月間の残業が10時間未満です。休日に連絡するようなことも基本的にありません。
門田さん
こういった会社の方針は2人で話し合って決めました。人を雇うからには長く働いてもらうためにどうするべきかとか、成長できる環境にはしたいなとか。それでもきっとスタッフ達はいっぱいいっぱいだとは思うんですが。
ダイヤの時計は国内随一のラインナップ
お二人とも非常にストイックな印象で、一つ一つの言葉に仕事への熱意が溢れています。スタッフに対しては成長の機会や働きやすい環境を重視するなど、人を大事にするという明確な方針がある点も同社の魅力だと感じました。
続いて、お店で扱う商品についてもお話しいただきました。
門田さん
弊社の商品ラインナップの大きな特徴が、ダイヤモンドで装飾した腕時計の品揃えが国内最大級であることです。
また、一般的に腕時計は時計屋さん、ヴィンテージバッグなどはヴィンテージショップという大まかな住み分けがあると思いますが、当店では腕時計を中心にしつつ、バーキンなどのバッグや指輪などのジュエリーも充実しています。
腕時計に合わせたコーディネートのご提案も行っているので、腕時計を買った後にジュエリーを買いに来てくださる方も多くいらっしゃいます。
全体でおよそ300点の商品を扱っていますが、今後もさらに増やしていく予定です。現在はレディース向けの商品が中心で、メンズ向けの腕時計は多くはありませんが、メンズ商品のご要望をいただくことが多いので、こちらも今後は充実させていくつもりです。
人と違う景色を見たいなら、人と同じ毎日を過ごすな
最後に今後の目標と、新たな戦力に求める人物像について語っていただきました。
門田さん
これからの目標としては、やはり明確に数字を上げていきたいというのもありますし、スタッフが成長していける会社でありたいということも常に考えています。みんなで生き生きと、やりがいをもって働ける環境にしたいです。
最初は必死でガムシャラにやっていたので目先の数字を追うばかりでしたが、余裕が出てきてからは環境を重視するようになりました。特に最初の1年ほどは深夜まで仕事したり、旅行先でも朝から仕事していたりすることも多かったんですね。
現在も時々はそういったこともありますが、創業時は単純な作業ベースでこなすイメージだったんです。でも今は今後どうやって良くするか戦略を考えるなど、クリエイティブな働き方になってきました。
金城さん
社内の部門は商品メンテナンス、企画、管理、販売に分かれています。
スタッフから提案された新しい企画を採用することもありますし、年功序列ではなく能力重視なので、やる気がある人にとってはやりがいが感じられる環境だと思います。成長に合わせて昇給もしていけますし、実際4ヶ月ごとに昇給している人もいます。
今後も良い人がいたら常に採用したいと考えています。求める人物像は、ポジティブで成長していきたいという上昇志向がある人。そして自責思考であることです。
現在働いているスタッフは女性が多いのですが、女性が活躍できる場所ということも意識している点です。
また、理念としてもう一つ、僕の中で重要な言葉があります。
“人と違う景色を見たいなら、人と同じ毎日を過ごすな”
僕たちの考え方や理念に共感していただける方がいたら、ぜひ一緒に頑張っていただきたいです。
『LE MIRAIS Collection』
公式サイト:https://lemirais.jp