税制や社会保険には「扶養」という概念があります。結婚する際や高齢の親を扶養に入れる、夫の扶養に入るなどという言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。しかし、扶養は税法上の扶養と社会保険に関連する扶養があり、混乱してしまうこともあるかもしれません。
そこで今回は、扶養の基本概要や、税制と社会保険における扶養の違い、扶養家族になるメリット・デメリットなどを紹介します。
▼この記事を読めばわかること
・扶養とは
・税法上の扶養親族の要件
・社会保険に関連する被扶養者の要件
・扶養に入るメリット・デメリット
・扶養に入れるメリット・デメリット
扶養家族の概要/種類・要件について
まずは「扶養家族」の基本情報について紹介します。
扶養家族とは
「扶養家族」とは、家族の収入によって養われている人(家族)のこと。一般的には大黒柱(夫または妻)の収入がない、もしくは収入の少ない配偶者や子ども、両親などの親族を、大黒柱の収入によって養う状態のことを扶養家族といいます。
家族を扶養している人または家族に扶養されている人は、税金や社会保険について優遇されるのが特徴。税制や社会保険制度では大きく、税法上の「扶養親族」と、社会保険に関連する「被扶養者」の2種類に分類されます。
税法上の扶養親族の要件
税法上の扶養親族とは、簡単にまとめると「生計を一にする親族で、所得金額が一定を下回る人」です。
具体的には以下4つの要件を満たす人のことを指します。
・配偶者以外の親族(6親等以内の血族及び3親等以内の姻族)
・納税者と生計が同一
・年間の合計所得が48万円以下(パート・アルバイトなど給与所得者の場合は年収103万円以下)
・青色申告者の専従事業者として同年一度も給与の支払いを受けていない(または白色申告者の専従事業者でない)
例を挙げると、親と同居している子ども(16歳以上)や、収入がないまたは少ない退職後の高齢者が扶養親族に当たります。配偶者に関しては、扶養控除ではなく「配偶者控除」あたり、控除対象配偶者や、配偶者控除を受けられる納税者の要件が異なりますので、ご注意ください。
社会保険に関連する被扶養者の要件
社会保険に関連する被扶養者は、「健康保険に加入している本人(被保険者)によって扶養されている家族」のことをいいます。健康保険に加入している人(被保険者)は、自分で生計が立てられない家族を被扶養者にすることができます。この場合、被扶養者は自分で公的医療保険に入らなくても、被保険者である家族の健康保険によって3割負担で医療機関を受診できます。
被扶養者の要件は「被扶養者の年収が130万円未満(60歳以上or障害年金を受給できる程度の障がい者の場合180万円未満)です。
なお、被保険者と被扶養者が同居している場合と同居していない場合で要件が変わってきます。同居している場合は「原則被扶養者の年収が被保険者の年収の2分の1未満」、同居していない場合は「被扶養者の収入が被保険者の援助額よりも少ない」という違いがあります。
また、健康保険の被扶養者に入れる親族は、以下です。
同居でも別居でも可:内縁・事実婚含む配偶者、子、孫、兄弟姉妹、父母等の直系尊属
同居が要件:上記以外の3親等以内の親族、配偶者の連れ子、父母、配偶者死亡後の連れ子、父母
扶養親族になる代表的な3つメリット
扶養親族になる代表的なメリットは税金や社会保険の優遇が受けられることです。具体的に3つに分けて紹介していきます。
扶養する側の税負担が軽減される
扶養家族の大きなメリットは、扶養する側の税金が抑えられることです。所得税と住民税の控除額が増え、税金の負担を減らせます。扶養している家族、配偶者がいれば、子供や親を扶養に入れれば、扶養控除、配偶者を扶養に入れれば配偶者控除や配偶者特別控除を受けることができます。
あるケースを例に挙げると、所得税率が20%の子どもが親(70歳以上)と同居し扶養する場合、所得税の控除額は58万円、住民税の控除額は45万円です。
そのため、58万円×20%=11万6,000円が節税になります。また、住民税においても控除額45万円の10%、つまり4万5,000円の節税につながります。さらに、扶養控除によって所得税率自体を下げられる場合もあります。
扶養される側の社会保険料が免除になる
公的医療保険は強制加入のため、会社の健康保険に入れない人や自営業・個人事業主の場合は基本、国民健康保険に加入し保険料を納めなければなりません。家族の健康保険の被扶養者になれば、自分で保険料を納めて公的医療保険に入らなくてよくなります。また、配偶者の扶養に入る場合には、国民年金保険料の負担もなし。社会保険料が免除になるのは、家計として大きなメリットでしょう。
扶養する側の社会保険料は増額されない
健康保険に加入している本人(被保険者)は、被扶養者がいても払う保険料は変わりません。配偶者を扶養に入れたとしても厚生年金保険料は増えませんので、ご安心ください。そのため、家族単位での社会保険料の負担が抑えられます。
扶養家族になるデメリット
扶養家族になると、扶養する側、される側、どちらにもデメリットになることもあります。どんなデメリットがあるのか、具体的に3つ紹介します。
扶養される側に年収制限がかかる
上記でもご紹介したように、税金の扶養に入るには、年収103万円以下、社会保険の扶養に入るには、年収130万円未満という要件があります。そのため、扶養のメリットを得ようとすると、働き方に制限がかかってくるでしょう。
扶養される側が病気・ケガで仕事を休んだ際に保障されない
病気またはケガで仕事を休む際には、傷病手当金がもらえます。ただし、受給するためには自分自身が社会保険(健康保険)に加入し被保険者である条件。そのため、配偶者や家族の被扶養者である場合には、傷病手当金の対象外になります。
介護保険料の負担が増加する恐れがある
65歳以上の親を扶養に入れ、同世帯で生活する場合には、親の介護保険料が増加する恐れがあります。その理由として、介護保険料は世帯収入にもとづいて計算されるためです。高齢期には介護利用の機会が増えがちなので、介護保険料の増加は、経済的に大きな負担と感じる家族も多いでしょう。