お問い合わせ

インタビュー

「子どもたちはなんでもできる」可能性を表現できるように/生きるための学習塾・中川 貴士

福岡市博多区にある学習塾「タカ塾」。不登校・発達障害の生徒に特化した学習塾で、学力だけでなく社会的自立にも力を入れています。

「学校でできること、できないことがある。教師として働く中で、どうしても手が行き届かない子がいるという現実を感じました」と話してくれたのは、オーナー兼塾長を務める中川 貴士さん。私立高校に勤める現役の高校教師です。

本インタビューでは、現在の活動に至るまでのお話や、経営されている「タカ塾」「and(あんど)」での取り組みについてお話を伺いしました。

■プロフィール
中川 貴士(ナカガワ タカシ/1992年生)
・熊本県八代市出身
・福岡大学商学部卒業​
・私立高校に勤め、クラス担任・社会科主任などを経験
・同校の勤務を非常勤講師に切り替え、生徒と保護者の居場所カフェ「Cafe Cross」開業
・2020年 不登校・発達障害の生徒に特化した個別学習塾「タカ塾」開校
・2022年 オンラインフリースクール「and」開校

人材育成のスキルを身につけるため、教育業界へ

商学部から教育業界への就職は珍しい経歴かと思いますが、いつ頃から高校の教員になろうと考えていたのでしょうか?

教育業界に入ろうと思ったのは、大学3年生の頃でした。もともとは経営者になりたいと考えていたので、商学部経営学科に進学していたんです。

ただ、いざ起業を考えたときに「経営に関しては勉強できたけど、人材育成のスキルがない」ということに気づきました。人の成長をサポートするような仕事を探して、たどり着いたのが学校の先生でしたね。

はじめから教員免許をとるために必要な単位もとっていたのでしょうか?

自分が先生になるとは考えていなかったので、取っていませんでした。なので商学部経営学科を卒業後、大学の制度を利用して教員に必要な単位を2年間かけて取得しました。大学には6年通ったことになります。

その後、学校探しをされたんですね。

そうですね。ただ、私立高校に絞って探しました。そもそも教員になる目的が「人材育成のスキルを身につけること」だったので、公立高校は違うなと思ったんです。

公立の場合は赴任する学校を行政が決めるので、自分では選べません。それに、「右向け右」でみんなが右を向くような学校は嫌だったんです。

手強い子どもたちがいる方が自分にとってもいい経験になるし、いろんなケースを見てみたいと思ったので、不登校支援を行っている私立高校を選びました。

選んだ学校は、全体の7割くらいが不登校を経験してきている子どもたちです。今まで学校に行けなかった子が高校から来れるようになったり、入試には来れたけど入学後は来れないなど、さまざまな子たちがいましたね。

私立高校に入社後は、どのような仕事をしていたのでしょうか?

1年目は非常勤として働き、2年目以降はクラス担任をしたり社会科主任を担当したりしました。4年間勤めてから非常勤講師に切り替え、今は日本史、世界史、現代社会といった社会科の授業だけを担当しています。

高校教師を続けながら「タカ塾」「and」のオーナー兼塾長へ

非常勤講師になって、すぐ塾を開校したのでしょうか?

まず生徒と保護者の居場所カフェ「Cafe Cross」を2020年に開業しました。学習塾の活動の土台を先に作ろうと思ったんです。

そのあと不登校・発達障害の生徒に特化した個別学習塾「タカ塾」を開校して、2022年にオンラインフリースクール「and」を開校しました。

学習塾ということは、主に勉強のサポートをしているのですか?

勉強のサポートもしていますが、基本的にはご家庭や本人の希望に沿ったサポートをしています。「出かけてみたい」「家族以外の人と関わる時間が欲しい」ということであれば、一緒に出かけたりゲームをして過ごしたりすることもありますよ。一般的にイメージする学習塾とは異なるかもしれません。

タカ塾は先生と生徒の1対1の関わりで、家庭教師のようにご家庭に訪問したりオンラインで対応したりしています。外部の人のサポートを必要としている生徒が利用してくれていますね。

andはオンラインを基本とし、複数人の生徒が参加します。金曜日はゲーム、水曜日は低学年と高学年に分けて学習系の活動をしています。
スケジュールはカレンダーで共有しているので、それぞれ参加したいときに自由に参加してもらう形です。

最初に開業したカフェは、どのように活用されているのですか?

Cafe Crossは、生徒が接客や調理の体験をするほか、オンライン以外でも集まれる場として活用しています。

あと、コーヒー販売も行っています。ドリップコーヒーのパッケージに貼るイラストは、生徒に書いてもらっているんです。マルシェや地域のイベントで販売し、生徒に売れていく様子を感じてもらってます。

「自分がやってきたものがこうやって社会に必要とされて、いろんな人から認めてもらっているんだよ」というのを直に感じてもらいたいなと思って取り組んでいます。

不登校や発達支援をしている企業への転職ではなく、ご自身で学習塾を立ち上げたのはなぜですか?

「自分で何かをしたい」という根本的な思いは変わらなかったからです。また、不登校支援をしている学校でも、どうしても手が行き届かない子がいる現実を感じていました。僕自身もそうでしたが、担任を持っていると目の前のことで手一杯になってしまうんです。

学校だからできることもありますが、学校だからできないこともあると思います。僕自身が動けば、早く柔軟にコミットできる。今その子が必要としていることにスピーディーに対応するためには、個人の方がいいと思ったんです。

高校教師として、非常勤の勤務は今後も続けられるのですか?

そうですね、辞めるつもりはありません。この仕事をする以上、現場を知らないといけないと思うんです。

「不登校でも大丈夫だよ」と言われるときに、「今の教育現場はこうだから大丈夫」と言われるのと「僕のときはこうだったから大丈夫」と言われるのでは、説得力にも差がありますからね。実際に僕自身が教育の最前線に立ち、現場を目で見たうえでタカ塾やandの生徒をサポートする必要があると考えています。

非常勤講師と塾の経営、両立するうえで大変なことはありますか?

高校まで通勤するのに片道1時間半ほどかかってしまうので、時間の使い方は工夫するようにしています。移動中の時間も無駄にしないよう、ニュースを聞くなどできることをするようにしていますね。

現在の活動をやってきてよかったなと思ったエピソードを教えてください。

小学校から高校までずっと学校に行けていない子がいたんですが、今では就労支援にもひとりで行けるようになっていることですね。

初めはご家庭に訪問して過ごしていたのですが、一緒に家の近くを散歩してみる、バスに乗ってみるなど段階を踏んで、最終的にひとりでカフェまで来てくれるようになりました。その子の家からカフェまでは30-40分かかりますし、ひとりで行動して会いに来てくれたことがとても嬉しかったですね。

修学旅行も経験していない子だったので、しおりを作って親御さんと3人で旅行もしました。これは本当に印象深いエピソードです。

すごい変化ですね。親御さんからよく言われることはありますか?

よく「先生のおかげ」と感謝の言葉をいただきますね。でも、そうではないんです。僕は日頃から「子どもたちはなんでもできる」と考えているので、その子の持つ可能性を表現できるようにフォローしているだけなんです。

例えば、僕はうるさいお店が自分に合わないので行きませんが、この選択をしたからといって僕の優劣が決まるわけではありません。不登校もその感覚と同じで、その子にとって学校という場所、教室という空間が合わないから行かないだけだと思うんです。

なので、学校に行けないことで、その子の優劣が決まるわけではありません。であれば、私の役目はその子が持っている力を別の場所で発揮できるようフォローしてあげることだと思ってます。生徒には自信を持ってもらいたいですね。

心強い存在ですね。生徒にも保護者にも心地よく過ごしてもらうために、気をつけていることはありますか?

1つめが「絶対に否定しないこと」、2つめが「結果じゃなく過程を認めること」です。過程を認めるようにしていれば、否定的な言葉は自然と出てこなくなりますよ。

問題の回答が間違っていたとしても、生徒は間違えようとして間違えたわけありません。宿題をやらなかったとしても、「なぜやらなかったのか?」を言えたらそれだけでもいいんです。完璧にできるわけじゃないから、失敗は全然オッケーです。

「この活動が社会に必要とされて、広がるなら嬉しい」

今後の目標はありますか?

今のところ、規模を大きくしたいとか売り上げを上げたいみたいな明確な目標はありません。目の前の授業を大切にして、来てくれてる生徒たちにとにかく真摯に向き合っていれば、ゆくゆく広がっていくと思ってます。

それに、僕がやっていることが正しくて、社会に必要とされているんだったら、勝手に広がらないといけないとも思ってます。

ただ、僕以外の先生もいるといいのかなとは考えています。「僕とは合わないけど、こっちの先生とは合うな」と思ってもらえることで、フォローできる生徒が増えるかもしれないので。

教員のキャリアの活かし方に悩んでいる人に向けて、メッセージをお願いします。

先生たちがやっていることは、実はとても価値の高いことなんです。教員は段階を経てしか給料が上がっていかないので、評価されていることを感じにくいんです。でも、生徒のことを考えて、クオリティの高い授業を行っている先生は多いです。

教員同士だと変な色眼鏡が入ってしまいますが、一歩外に出ると自分のことを全く知らない人がフラットな状態で見てくれます。なので、「どんな授業をしてるのか」「何をしているのか」ありのままの自分の姿を評価してくれます。

学校以外の場に出るのは怖いかもしれませんが、これまでやってきたことに自信を持って行動してほしいですね。

●生きるための学習塾「タカ塾」
公式HPはこちら

TAG

Written by

奥山りか

奥山りか

大学卒業後、アパレルや幼稚園、医療系IT企業での勤務を経て、取材ライターとして独立。医療・保育分野を中心に、さまざまなジャンルの取材・ライティングを行う。「わかりやすく、しっかり伝える」がモットー。

ハレダスでは
無料で就職・転職の相談
を承っています

しごと相談する LINEで相談する