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インタビュー

NSC44期生 井上真徳/「今までいなかったよね」と言われる芸人を目指して

文科省と厚労省の調査によると、ここ数年の大学生の内定率は90%以上。コロナ禍で就職活動が困難な2020年12月でも、内定率は82.2%。つまり、8割以上の人が企業に就職します。

そんな中、あえて企業に就職せず自分の夢を追う人がいます。今回紹介する井上さんもそのひとり。

井上さんは2021年3月に大学を卒業したあと、吉本総合芸能学院(NSC)に入学しました。なぜお笑い芸人を目指すのか、これからどんなことをやっていきたいかなどについてお話を伺います。

■プロフィール
・井上真徳(いのうえまさのり/1997年4月9日生/長崎県)
・小学5年生でダウンタウンの番組を見てお笑い好きになる
・吉本興業のマネージャーを目指し立命館大学に入学
・大学3年生の9月にお笑い芸人を目指すと決意
・2021年3月大学卒業後NSCに入学

吉本興業のマネージャーになりたくて大学進学

井上さんは、長崎県でブリの養殖業を営む家の次男として生まれました。船酔いしやすい体質で、海の上に出て家業を手伝うことは少なかったといいます。次男であったことから、両親からもあまり将来について言われたことはありませんでした。

そんな井上さんに転機が訪れたのは、小学5年生のときでした。

井上さん
ダウンタウンにハマったんです。『ダウンタウンのごっつええ感じ』が好きでDVD借りて徹夜で見ました。

『ごっつええ感じ』って僕ら世代の番組じゃないから、友だちは誰も知らないんです。だけどこの面白さをどうしても伝えたくて、ひとりでできるコントを選んで、自分で台本書いて覚えてみんなの前で披露していました。

中学の卒業式のあと、謝恩会で漫才披露したこともありますよ。友だち相方にして、自分で台本書いて。

台本書くときにね「ここでこれくらいウケたらいいな」と思いながら書いたんですよ。そうしたら狙った場所で狙ったとおりのウケが来たんです。これがね、めちゃくちゃ気持ちよくて、ゾクッとしましたね。

人前でお笑いをする楽しさに目覚めた井上さんですが、高校で進路を真剣に考えたときにふとこんなことを思ったそうです。

井上さん
お笑い芸人になったとして、一生懸命努力してどこまでいけるかなと。よくよく考えたら「ダウンタウンは越えられないな」と思ったんです。

ダウンタウンみたいになりたいという夢がある、だけどそれは自分には叶えられない。じゃあこの道はやめようか、と。

それでもお笑い好きの気持ちは変わらず、なりたいと思ったのは吉本興業のマネージャー。ちょうど親戚に吉本興業の人事部に知り合いがいるという人がいたので、その人を通じて「吉本興業に入るにはどんな大学に行けばいいか」と尋ねました。

井上さん
関西でいうなら京大・阪大・神大、そして関関同立。このあたりの大学を出てないと厳しいと言われて、じゃあその大学に行こうと思ったんです。

「マジックのお兄ちゃんだ!」このひとことで夢が蘇った

こうして井上さんは一浪後、立命館大学に入学。理工学部で勉学に励みます。

井上さん
勉強は一生懸命しましたね。だって卒業したかったから(笑)

その一方でサークルは手品サークルを選択。ほぼ毎週末は滋賀県・京都府の小学校や保育園、老人ホームなどを回って手品を披露する充実した日々を過ごしていました。

周囲の同級生がインターンなどをはじめた大学3年生の9月、転機が訪れます。

その日井上さんは、地元のショッピングモールを歩いていました。

「マジックのお兄ちゃんだ!」その声に振り向くと、小学生の女の子とその母親が立っていました。女の子はつい最近、小学校で井上さんのマジックを見ていたのです。「覚えていてくれたんや、うれしいなあ」と思いながらちょっと話していると、お母さんが思いがけないことを言ったのです。

井上さん
この子僕のマジックに影響受けて、自分でもマジックの本買って、練習して、みんなの前で披露しているんですよって。
その言葉に「エンタメは人を変える」って実感したんです。思えば僕も、小学生のときに松本さんの芸見て変わったなあって。吉本興業入りたいって思ったのも、松本さんの芸の影響だったな、と。

ちょうどその頃、お笑い芸人のあり方にも大きな変化が生まれていました。お笑い以外にも活躍の場を広げる人たちが話題になっていたのです。

井上さん
特にキングコングのお二人ですね。梶原さんは『カジサック』って名前でYouTubeはじめるし、西野さんは絵本作家になるし。そんなお二人を見て、お笑いと別の肩書を組み合わせればまたパンとハネる(盛り上がる・人気が出る)んだなと思ったんです。

それなら僕もできるんじゃないか。やってみよう、今やらなかったら絶対後悔する。そう思って、お笑い芸人になろうと決めました。

同級生たちが就職活動を行なう中、井上さんは卒業したらNSCに行くと宣言。ほかの大学のお笑いサークルに声をかけ、一緒にお笑いライブに出演させてもらうようになりました。井上さんのお笑い好きを知っていた友人たちは、その選択をごく自然に受け止めたそうです。

そしてまた両親も、その選択をごく当たり前のように受け止めてくれました。

井上さん
親には4年生の8月に伝えたのですが「やっぱりね」と言われました(笑)そういえば大学進学したときも、親からは「芸人にならんでいいの?」って聞かれてたんですよね。

「いままでいなかったよね」と言われるような芸人に

大学卒業後にNSCに入ると決めた井上さんですが、NSCで学ぶには学費が必要です。まずはそのお金を工面する必要がありました。

井上さん
実はすごい偶然があったんです。

ちょっとした事故に遭ったんですよ。怪我は大したことなかったんですが、その事故の慰謝料が45万円。そして、NSCの学費は44万5千円なんですよね。

やった!このお金で学費が払える!もうこれは「行け」って言われているようなもんだ!って思いました(笑)

こうして入ったNSCですが、本格的なネタ合わせなどの授業が始まるのは6月。インタビューは5月に行ったのですが、この時点ではネタ作りの方法や講師との顔合わせが主な授業内容だそうです。

井上さん
授業もオンライン中心ですが、同期とはよくしゃべっています。実は、同じマンションに同期が20人くらいいるんです。同じ階にも4人いるから、時間があれば誰かの部屋に集まっていろいろしゃべっています。

NSCは、とにかく楽しいところなんですよ。今までいろんなコミュニティーに属していましたけど、今が一番楽しい。同じ方向向いている人たちばかりだからでしょうかね。

そんな井上さんの目標は「今までいなかったよね」と言われるような芸人。そこで考えているのが、学生のときに気づいた、掛け合わせです。

井上さん
実は、実家のブリ販売の会社を作って社長もやってるんです、僕。食べていけるほどの収入はまだ全然ないんですけどね。

それで、ブリ販売の一環としてみんなでブリを食べるイベントをやろうかなと。そのイベントでブリを調理している間にネタを披露する。これができれば、圧倒的に踏める場数が増えるんです。僕はもちろん、同期やいろんな芸人さんを誘って一緒にやることだってできますよね。

若手芸人はネタを披露する短い出演時間を得るために、多くのライバルとすさまじい競争を繰り広げなければいけません。その競争とまた違う場所で定期的にネタを披露する場を作ることができれば、それだけ多くの舞台経験を作ることができる。それが井上さんの狙いです。

ブリ販売イベントでネタを披露するというアイデアには、もうひとつ狙いがあります。それは、ファン同士のつながりを作って井上さん自身の集客力を上げることです。

井上さん
僕のネタを見にイベントに来て、最後にみんなでブリを食べる。これやるとファン同士が知り合って友だちになれるんですね。そうなると、僕の舞台を見に来る目的が「僕の芸を見る」「会場で友だちに会う」の2つに増えるんですよ。

売れているエンタメの人って、ファン同士のコミュニティーがあるんですよ。ファン同士でも盛り上がるんです。それが結局、集客力につながるんじゃないかなと。

僕自身のネタが面白いというのはもちろんだけど、プラス集客力がついたら、ライブでも使ってもらいやすいでしょ? 今お笑い芸人の活躍の場っていろいろありますけど、やっぱり僕はリアルでお客さんの反応がわかるライブが一番好きなんです。

こんな感じでブリと掛け合わせて仕事をしていけたらと考えています。これは僕にしかできないことですよ。だから芸名も「ブリ」にする予定です。

しっかり調べて考えれば、思い切った行動もできる

芸能界は浮き沈みが激しいと言われます。確かにテレビを見ていても、長く活躍する人はごくわずか。一発屋と呼ばれるような人も少なくありません。井上さん自身も、一度は高校のときに夢を諦めました。

にもかかわらず、井上さんは「芸人になる」という道を選びました。そしてなったあとにどう売るかまで見据えています。

井上さん
NSCに入って芸人を目指す。僕が思い切ってこう行動できたのは、調べたからなんです。何もわからないところに一歩踏み出すのは勇気がいります。だけど調べれば、この道ならこういう歩き方がある、こういう道ならこう歩いたら歩きやすいんじゃないかと推測できるんです。

高校のときは、調べた結果無理そうやなと思った。だけど大学行ってもう一度調べたら、行けそうやと思った。歩き方がある程度わかったから、踏み出せたんです。

笑いを交えつつ、将来を語るときは経営者のようなしっかりとした目になってお話ししてくださった井上さん。歩き方がわかれば、一歩踏み出しやすくなる。その言葉は、ハレダス読者の背中を押してくれる力強いひとことでもあるように感じました。

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Written by

鶴原早恵子

鶴原早恵子

京都在住フリーライター。ECサイトのメールマガジンや商品ページ、企業サイトのコラム、ウェブメディアの取材記事などいろいろ書いています。趣味は写真。乗り鉄だけど乗り物酔いしやすいのが悩みのタネ。

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