
少子・高齢化の進展や単身世帯の増加などを背景に、犬や猫などをペットとして飼う人が増えています。それに伴いペットの死亡数も増加しており、近年は「人よりペットの供養(葬儀・お墓など)を手厚く行なう人も増えている」との声も聞かれます。
そのためここ数年は、ペット供養を行う会社が増加し、競争が非常に激しくなっています。そんな激しい競争の中、4年で約11倍もの売上アップに成功している会社が大阪にあるとのこと。ペットの出張火葬サービス「ハピネス」を全国展開する株式会社プログレス・代表の森山友祐子さんにお話を聞きました。森山さんはヘアメイクの仕事から一念発起し、転職。入社数年で役員にまで上り詰めた異色の経歴の持ち主です。
今展開しているサービスについて、森山さんのキャリア遍歴についてインタビューしました!
プロフィール
森山 友祐子(もりやま ゆうこ)
株式会社プログレス 代表取締役
・平成20年3月 N.Y Make-up Academy卒業
・平成20年4月 ヘアメイクフリーランス活動開始
・平成23年4月 京都理容美容専修学校入学(平成26年3月卒業)
・平成26年4月 株式会社堺かつら(毎日放送内ヘアメイク部門)入社
・平成28年8月 株式会社プログレス入社
・令和3年12月16日 同社取締役、代表取締役就任
・令和5年 株式会社happiness、株式会社ハピネス 取締役就任
犬や猫、メダカにチンアナゴまで!小さな生き物でも確実に骨を残す自社開発火葬車
━━今日はよろしくお願いします。まず、ペット火葬について教えてください。
ペット火葬とは、人と同じように葬儀を行い、火葬し、ご遺骨を残して飼い主様にお返しする供養のことです。3つの方法があり、ご遺体を預かって合同で火葬するプラン、飼い主様の立ち会いのもと最後のセレモニーを行い、ご遺骨をお返しする個別火葬プラン、そして個別火葬に立ち会った後に飼い主様の手で拾骨までできるプランです。ここ数年、全国的にみても拾骨までできるプランが人気なので、ペットを本当に大切にされているご家族が増えているという印象です。
━━サービスを開始されたのは2020年とのことですね。4年間で、全国に支店を20箇所ほどに増やすことで、依頼数も売上も急激に成長されています。「ハピネス」のサービスの特徴は何でしょうか?
ペット火葬は、火葬炉を積んだ車を走らせて出張サービスで執り行う会社が多いのですが、弊社はその火葬車が自社開発だという点が強みだと思っております。
━━火葬車に違いがあるということでしょうか?具体的に、どんなことができるのですか?
従来型の火葬炉では、火力・風力の微調整が難しく、体の小さいペットだと骨まで燃えてしまうんです。それだと、大切なご遺骨が残りません。様々な火葬炉を研究し、良いところをピックアップして試行錯誤しながら、今の火葬車が完成しました。メダカやチンアナゴなど…骨がある生き物であれば、綺麗に骨を残すことができます。
━━魚類も大切なペットですよね。私が幼少期の頃、金魚などは庭に埋めていましたが…。
昔はそれでも問題なかったのですが、最近は集合住宅が増えて、私有地が少なくなっています。火葬しようにも、そういった珍しいペットは断られるケースもあったようで、弊社を頼ってくれたんです。もちろん依頼の大半が犬・猫が多いのですが、飼い主様にとっては一緒に住んでいれば大切な家族です。熱帯魚・カエル・亀・ヘビ・イグアナなど…着実にニーズは増えていると感じています。そういった実績がどんどん口コミで広がり、リピートしてくださる飼い主様も多いです。
━━なるほど。そういった火葬技術は「ハピネス」独自の技術ということですね。
火葬経験の浅いスタッフでも綺麗に骨が残せるように、安定した性能の火葬車を開発した。という方が正解に近いかもしれません。この火葬車によって、人の経験・技術に頼っていた部分をある程度は一定にできました。それでもスイッチ一つですべてが完結するわけではありません。火葬をしている間、スタッフは炉を覗いて、火力を管理しています。
ペットロス経験は6割にも。ペット火葬サービスが求められる背景とは?
━━ペット火葬サービスを始めた経緯について聞かせてください。
ペット火葬「ハピネス」が始まったのは、2020年です。それまでは遺品整理サービスを行っていて、会社が新しい事業を始めるにあたって様々なアイデアが出たのですが、その中の一つに「ペット火葬」という案があり…私にさせてください、と手を挙げたんです。
━━なぜでしょうか?
幼少期の話になるのですが、私の母は保護猫活動をしていたんです。保護猫も含め、家の中には常に何匹も猫がいる環境で育ってきました。そんな中、小学生の時に飼い猫を事故で亡くしました。突然のお別れで、学校も数日休むほど心の整理をつけられずにいたんです。今思えば、ペットロスだったんだと思います。
━━ある調査では、ペットを飼育している人の6割がペットロスに陥るそうですね。
当時の記憶では、遺体を段ボールに入れて行政が引き取って…という感じで、あっさりと処理されました。きちんとお別れができなかったことをずっと後悔していて。ペット火葬という話が挙がった時に、当時小学生だった時の自分の悲しさや後悔が鮮明に蘇って、「絶対に私がやるんだ」って決意しました。実際、最初は悲しみいっぱいの飼い主様も、最後にはスッキリとした表情になることも多いんです。葬儀は、心の整理をつけたり、区切りをつけたりする儀式になるのかなと思っています。
━━印象深いエピソードはありますか?
たくさんあります。依頼の数だけ、そのペットが家族から愛されてきたことが伝わってくるんです。ペットというわけではないのですが、薬学部の学生さんから、授業で出たカエルのご遺体を火葬したいという依頼を受けたことがあります。「自分たちの勉学の犠牲になった命を、きちんと見送りたい」という言葉が印象に残っています。ペットではないにしろ、命というものがいかに尊いものなのか、改めて学んだ気がしました。
━━サービスを行う中で、森山さんが心掛けていることはありますか?
飼い主様の悲しみにしっかり向き合い、寄り添うことです。よく葬儀会社では「依頼者の悲しみに毎回共感すると心が疲れる」なんて言われますが、私はペットロスを自分でも体験し、大切な家族を淡々と処理されたという後悔があります。会社にとっては日常でも、飼い主様にとってペットの死は本当に大きな悲しい出来事なんです。その気持ちを絶対に忘れずに、作業にならないように気をつけています。
ヘアメイクから別業界への転職、入社3年で役員昇進。森山さんのこれからの目標とは…。
━━森山さんは元々はヘアメイクのお仕事を目指していたんですよね。
そうなんです。子どもの頃は『メイクさん』に憧れて、美容専門学校に進学しました。卒業後は決まった会社に就職せず、平日はホステスさんのヘアセットして週末は知人のツテで撮影現場に行くという生活をしていました。26歳の時、テレビ局のヘアメイク会社に就職して、アナウンサーさんや芸能人の方にメイクをする、という仕事に就けました。しかし、徐々に理想と現実のギャップを感じるようになったしまったんです。
━━どういう部分でギャップがあったんでしょうか?
私が考える『メイクアップ』というのは、その人の魅力を引き出して、輝かせるものでした。でもテレビの世界は、その人の立場やポジション、共演者との兼ね合いなど…その人以外の理由で『こういったメイクはNG』とされることがとても多かったんです。こうしてみたい、こうした方が綺麗にできるのに…という思いがなかなか叶わなくて、モチベーションが保てなくなりました。
━━それで、今の株式会社プログレスに転職するんですね。次の仕事先を選ぶポイントはありましたか?
指示されたことをやるより自分で考えて動きたい、という想いが強く、経営や起業に興味を持っていました。そんな時に代表取締役社長の奥村とたまたま知り合い、中学校の先輩であることが分かって、一気に意気投合したんです。経営を学びたいという私の気持ちを汲み取ってくれました。最初はアルバイトでしたが、新しい人生を始めるつもりで夢中で学び、仕事しましたね。
━━森山さんがペット火葬のサービスを始めたのが2020年なので…その時に株式会社プログレスの代表に就任された、ということですね。
はい、そうです。入社して3年目の2018年に取締役となり、2年後の2020年に代表を任せてもらえるようになりました。私なりに、とにかく一生懸命にやろうと思って取り組んでいたことを評価してもらえたのだと、嬉しい気持ちと重い責任を同時に感じました。
━━入社してそこまで経っていない森山さんを登用する、奥村社長の思い切りもすごいですね。
やる気を買ってくださったのだと思います。そんな決断力も、経営者として尊敬する部分です。ただ、全員が同じ評価だったと言われると、決してそうではありませんでした
━━どういうことでしょうか?
最近まで同僚だった、あるいは部下だった私が急に代表になる…。という状況に、やはり戸惑いの声がありました。複雑な感情が邪魔して、意思疎通が図れない時期もあり、悩むことも多かったです。
━━なるほど。そんな壁をどのように乗り越えてきたのでしょうか?
奥村に評価してもらった、という事実を信じるようにしていました。今まで仕事にぶつけてきた時間や想いに嘘はありません。マイナスな意見ばかりに振り回されると経営者は務まらないんだと、受け流すことも覚えていきました。このペット火葬「ハピネス」を成功させたいという目標を支えに、とにかく気にしないように務めましたね。
━━ありがとうございました!これからの目標を教えてください。
私は動物が大好きなので、ペットや飼い主様のためになることをしていきたい。今年はペットタクシーのサービスも開始しました。また、ご遺骨を宮古島の海に散骨して自然に還す『自然葬』もいよいよ始まります。ペットは人間よりも寿命が短く、悲しむこともあるかと思います。だからこそ、その限りある時間を少しでも幸せに過ごしてほしい。そんなサービスを展開できたらと思っています。