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インタビュー

「心の強い人ばかりじゃない」こんな今だからこそ伝えたい役者の本音/澤井愛里

俳優やミュージシャン、アーティストなどの職業は華やかな世界に思えますが、その裏には私たちには見えない苦労や苦悩がきっとたくさんあることでしょう。

今回ハレダスでは、役者・脚本家・舞台制作として活躍する澤井愛里さんにインタビューを行い、現在の職業に就いた理由やこれまでの活動内容、あらゆる状況で感じてきたリアルな想いなどについてお話いただきました。

●プロフィール
澤井 愛里(さわい あいり)
・1992年5月18日生まれ
・大阪府出身
・青山学院大学を卒業後、舞台芸術学院にて修学
・現在は役者、脚本家、舞台制作として活躍中

遠回りして叶えた夢、周りとのギャップ


ーまずは、愛里さんが現在されている活動について教えてください。

役者として小劇場に出演しています。現在は事務所には入っておらず、個人(フリー)で活動中です。

そのほかに、エンターテインメント会社で運営の手伝いをしながら、演出助手や脚本のお仕事をさせていただいています。

ー演じる側とサポート側のどちらもされているんですね。昔から役者になるのが夢だったんですか?

そうですね、母が元々劇団員だったこともあり、役者という職業に幼いころから憧れはあったと思います。

母の勧めで中学生のころにキッズミュージカルに通っていたんですが、演技や歌、ダンスで表現するのが楽しくて「役者になりたい」と思いはじめました。高校に入ってもその気持ちは変わらなかったです。

ー愛里さんは大学を卒業した後に演劇の専門学校に通われていますよね。明確な夢があったのに少し遠回りされているような印象ですが…。

本当は高校卒業後すぐに演劇の専門学校に行きたかったんですが、当時父に反対されて。専門学校に入ってどうなるんだ、四年制の大学に行きなさい、と一蹴されましたね。

ただ、私自身も大学に行ってみたいという気持ちが少しあったのも事実で、両親の反対を押し切ってまで専門学校に行く決心はつかなかったので、大学に進むことにしました。

今思えば、大学に行ったからこそ出会えた人やできたことが沢山あったので、あの時は進学の道を選んで良かったです。

ー四年生になると、周りは就職活動を始めたと思いますが、愛里さんはどのように過ごされていましたか?

実は私も少し就職活動をしました。役者をしたいという気持ちはあったのですが、友だちが就活しているのを見ていると「やっぱり私も就職するべきなのかな」と不安ばかり募ってきて。

音楽やエンタメ関係の職業にいくつか応募しました。でも、説明会に行ったり選考が進むにつれて、「自分はやっぱりプレイヤーでいたい」という気持ちがどんどん強くなるばかりで。

他にやりたいことを見つけようともしましたが、何をやっても舞台に繋がるかどうかを考えてしまう自分がいて、この気持ちを諦めることは出来なかったので、就活はやめて専門学校に行くことにしました。

ーそうだったんですね。当時そのような葛藤や決意についてどなたかに相談されましたか?

家族にはしていました。父もそのころには私の夢を応援してくれるようになっていたので、悩みや想いを素直に伝えることができて、味方でいてくれたので心強かったです。

ただ、あの頃は友だちとは話しづらかったですね。みんなが就活で苦しんでいるのを見ていたので、私がなにか言っても「どうせ好きなことやるんでしょ」と思われるような気がして。

頑張っている子たちの横で、自分だけ好きなことをして良いのかなと、心のどこかで後ろめたさを感じていたのもあると思います。

ーすごくリアルな気持ちですね。私も愛里さんの立場だったら同じように感じた気がします。

歩みはじめた役者の道と目にした現実


ー演劇の学校ではどういったことをされたのですか?

私が通っていた学校は舞台芸術を専門としていたところだったので、声の特訓や感性を養うためのトレーニング、講義や実演などを通して、舞台人として必要な知識や表現力を沢山学びました。

あとは、年に3回公演をする機会があって、その公演では学生たちが舞台監督や照明、音響などの裏方も担当したり。

卒業後は劇団や事務所に所属したり、フリーで役者活動をする子が多いんですが、演じる以外の仕事もできるように、舞台に関することを一通り経験できるという感じです。卒業生の中には有名な役者さんも多くいらっしゃいます。

ーそういった方が多い中で愛里さんは劇団に所属されていないとのことですが、フリーで活動されているのはどうしてですか?

率直に、組織に属さず自分で出演する舞台を選びたくて。劇団も会社と同じように組織なので、やりたい仕事(作品)ばかりをできるわけではないんですよね。

もちろん役者の意志を尊重して自由に活動させて下さる組織がほとんどだと思いますが、私は自分で行動できるようにフリーで活動しています。

一人での活動は中々難しいですが、ありがたいことにこれまでの繋がりで色々とお仕事をいただいております。何事も自分で決断し、責任も全て自分にあるので大変ではありますが、とても勉強になっています。

ーとても素直な意見ですね。そのような考え方は役者を始められたときからずっと変わらずですか?

いえ、昔はとにかく場数を踏むために手あたり次第に出演していました。その作品が良いから出たいというよりも、とにかく経験を積むためだけに出るという感じ。

だけど、そんな中で良いと思えないような組織に出会うことが結構あって…。正直、一人だからこそ選択を間違えることも多々ありました。

ー“良いと思えないような組織”とは?

不道徳なところと言えますかね。高額なチケットノルマが課せられる、理不尽な扱いを受ける、ひどく恫喝されるなど、そのような現場を実際に目にしたことがあります。

チケットノルマは達成できないと演者が買取りしないといけないことが多く、時には何十万円も払うことも。

小劇場はギャラがでないか少額なところも多いので、役者は稼ぐどころかお金が減ってしまうことの方が多いんですが、みんないつか活躍できる日を夢見て頑張っています。

そんな役者の想いを踏みにじるような組織が、悲しいけれど割とあるんですよね。そんなとこには無理して居続けなくていいんじゃないかな、と思います。

ー決して楽な世界ではないと思います。辞めていく方も多いのではないですか?

そうですね。この業界は収入が不安定というのもありますし、年齢的なことも考えると「好き」や「憧れ」の気持ちだけでずっと続けられるという訳ではないと思います。

また、もうひとつの理由として、女性だと結婚や妊娠を機に辞めていく方も多いですね。作品が決まると数ヶ月休みがないし、稽古を休みにくい雰囲気も正直あるので、将来のことを考えるとどうしても辞めるという選択肢になってしまうんです。

ーなるほど、そういった点での苦悩もあるのですね…。

これからの活動と届けたい想い


ー現在脚本家としても活躍されていますが、始められたきっかけを教えてください。

専門学校の公演で脚本を書く機会があって、そこで短編の二人芝居を書いてみたのが始まりです。

はじめての試みでしたけど、その公演を観てくれた演出家の方が「あなたは脚本を書きなさい、俺が演出する」と卒業のときに言ってくれて。

昨年に「ベタースイッチ」という演劇の脚本を一本書いたのですが、その演出をしてくれたのがまさにその演出家の方なんです。

ー実現したんですね!その演劇はどのようなストーリーだったのですか?

関西の姉妹の話です。傍若無人な妹とそれに振り回される姉の様子を作品にしました。

私は脚本家として『共感してもらえる』をモットーにしているので、その作品を観てくれた方が「こういう人いるよね」「わかるわかる」って一緒に感じながらクスッとしてもらえたら、それ以上にうれしいことはないです。

「ベタースイッチ」も公演後にSNSでの反応を見たんですが、「心に響いた」って書いてくれている方が多くて、本当にうれしかったです。

年齢層によって響いた箇所のちがいがあったみたいで、そういったこともみなさんの反応を通して知れたので、すごく勉強になりました。

ー愛里さんの今後の目標を教えてください。

やっぱり演じることが好きなので、役者は変わらず続けていきたいです。そして、エンターテインメント会社でさせてもらっているお仕事も継続してできたら嬉しいです。役者の方が安心して過ごせる場所を提供していけるように頑張ります。

今もまだ昔の風習が色濃く残るこの世界ですが、もちろん悪いことばかりではなく、良い事や面白いことも沢山あります。刺激的なことがたくさんあるので、一度足を踏み入れるとその奥深さに魅了される方も多いはず。

この世界に憧れて入ってきた方々が、良くない環境のせいで辞めていってしまうのはもったいないので、そうならないようにしてあげたいです。

ー最後に、愛里さんからエンタメ業界を目指している方やハレダス読者に向けてメッセージをいただけますか。

どの世界でも苦しい事やもう辞めたいと思うことってだれにでもあると思います。そういう時は無理してその場に留まらず、一度離れてみてもいいんじゃないでしょうか。

世の中、心の強い人ばかりじゃないし、頑張り続けた先に必ず成功があるなんて無責任なことは言えません。自分の心と身体を守るために、別の道を探すことは真っ当なことです。

私が今制作側に携わっているのも、苦い経験をして役者から少し距離を置きたいと思ったからで、もしかしたら一種の逃げだったのかもしれません。

でもやってみたら楽しいし、それまでになかった考え方や視点を持てるようになって、新たな道が開けました。

どんなことも「好き」が「嫌い」になってしまうのは悲しいし、頑張りすぎて潰れてしまったら元も子もないので、そうなる前にほかの手段を探して、またやりたい気持ちが出てきたらチャレンジするようにしてほしいなと思います。そのタイミングだからこそ出会えることもきっとあるはず。

どんな時も、自分らしさを大切に楽しんでください。私も楽しみながら頑張ります!

ーありがとうございました。これからも愛里さんの活動を応援しています!

澤井愛里さんのリンク集
Twitter:@emillie08
Instagram:@airisawai

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Written by

YURI

YURI

大阪府出身のライター。 小説、ラジオ、美容コスメ、韓国をこよなく愛する。 大学卒業後、大手アパレル、英語教育サービスを経て、ライターに転身。 『話してくれた人の想いをきちんと届けること』がモットー。

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