公務員から民間企業への転職は難しいといわれています。難しい理由、そして、民間企業への転職を目指すメリットやデメリットについてまとめました。また、公務員からの転職に適した業界や転職を成功させるポイントも紹介するので、ぜひご覧ください。
公務員から民間企業への転職は難しい?難しいといわれる4つの理由
公務員になりたくて公務員試験に合格したものの、いざ働いてみると思ったような働き方ができないことや、自分に合わないと感じることがあります。そのようなケースでは民間企業への転職を検討しますが、実際のところ、あまり簡単とはいえません。
公務員から民間企業への転職が難しいとされる理由としては、次の4つが挙げられます。
- 評価基準が異なる
- 活かせるスキルが少ない
- 利益に対する考えが民間企業と異なる
- 公務員より待遇の良い企業が少ない
それぞれの理由について見ていきましょう。
1.評価基準が異なる
公務員と一口にいっても仕事内容は多岐にわたりますが、ほとんどの業務では柔軟性よりも規律性が求められています。
例えば、公務員が窓口に来た市民に寄り添い、本来のルールを曲げて柔軟に対応するならどうでしょうか。公務員の柔軟性が賞賛されることはなく、上司などの管理職によって低く評価され、査定や給与にも影響が及ぶでしょう。つまり、理不尽かつ非合理的であってもルール通りに対応することが、公務員として高く評価されるためのポイントでもあるのです。
一方、民間企業でも規律性が重んじられています。しかし、利用者に対して柔軟に対応することは、利用者が企業のファンになり、将来的な利益に結びつく行動ともいえるため、高く評価される可能性が高いといえるでしょう。
このように公務員と民間企業では評価基準が異なります。公務員は公共性の高い仕事であるため、利用者を増やすことや利益を追求することは評価対象にならないことが一般的です。
公務員としての経験が長いと、公務員の評価基準に沿った行動が身についているため、民間企業でうまく対応できないのではないかと懸念されます。そのため、本人の資質に関わらず、公務員であったという経歴がネガティブに作用し、転職活動がスムーズに進まないことにもなりかねません。
もちろん、公務員といっても結局は個人であり、個人の能力によって適正に判断されるべきです。しかし、多くの採用担当者や経営陣は、公務員というだけで「お役所仕事をする人(形式的で非能率的な働きぶりをする人)」と判断しがちで、能力はあっても採用されない可能性があります。
2.活かせるスキルが少ない
民間企業では各従業員が幅広い業務を担当し、それぞれの業務をこなすためのスキルを身につけることが求められます。一方、多様な業務を担当する公務員もいますが、多くの公務員は特定かつ定型化された業務のみを担当するため、多様なスキルを習得しにくいことが多いです。
例えば、パソコンを扱うことはできるけれども、既存のフォームへの入力しかしたことがないというようなケースもあります。民間企業で「パソコンを使えます」とアピールするときは、ドキュメントやエクセルシートを自由に作成し、適切に共有・管理することなどが当然のスキルとして含まれるため、公務員は民間企業の実務に対応できない可能性があります。
3.利益に対する考えが民間企業と異なる
公務員が属する国や自治体などの団体は、いずれも非営利団体です。利益を追求するのではなく、市民生活が滞りなく進むために業務を行っています。
一方、民間企業は営利団体です。利益を追求するために業務を行っているので、すべての従業員に対して自発的に利益につながる行動が求められます。
また、業務効率に対する考えも異なります。公務員は既定の仕事をマニュアル通りにこなすことが最優先される事項です。しかし、企業ではマニュアル通りの対応を続ける従業員よりも、頭を使って業務効率化を考え、少しでも少ない工程・時間・人員で業務を行うことが求められます。
4.公務員より待遇の良い企業が少ない
民間企業では、成果を上げた分だけ評価され、報酬や職位の向上につながることがあります。特に営業職のようにインセンティブが設定されていることが多い仕事は、成果と評価がわかりやすい形で結びついている傾向にあります。長年、公務員として働いてきた方から見れば、やりがいを得やすい職場に思えるかもしれません。
しかし、やりがいを求めて公務員から民間企業への転職活動を始めたものの、基本給や賞与などの具体的な数字を見て、「年収を下げてまでやりがいを求める必要があるだろうか」と戸惑う可能性もあります。また、休日制度や福利厚生、将来的に受け取れる年金額などを比較して、「わざわざ待遇の良くない民間企業に転職する必要はあるのだろうか」と感じる公務員もいるでしょう。
公務員から民間に転職するデメリットとメリット
公務員から民間企業に転職する前に、まずはメリットとデメリットを把握しておきましょう。安易に転職活動を始めると、「やはり公務員のほうが良かった」と後悔することにもなりかねません。
また、「民間企業に転職したい」という希望を持ちつつ行動に移さないでいると、老後を迎えたときに「本当に公務員として生きてきて良かったのだろうか」と後悔する可能性もあります。いずれの後悔を避けるためにも、客観的に公務員の仕事と民間企業の仕事を比較し、メリット・デメリットを分析することが必要です。
メリット
公務員は基本的には年功序列制です。ある程度の年齢になると職位が上がり、勤続年数と職位に応じた報酬が支給されます。そのため、若くして高い職位に就くことや高収入を得ることは難しく、歯がゆい思いをしている方もいるかもしれません。
しかし、民間企業に転職すれば、能力に応じてスピード出世や高収入も可能です。年功序列制にとらわれず、自分の可能性を試すことができます。
また、民間企業では企業内での人事異動も多く、さまざまな業務にチャレンジできることがあります。将来的に再転職するときには、さらにキャリアの選択肢が増えると考えられるでしょう。
デメリット
令和4年度の国家公務員給与等実態調査によれば、国家公務員の平均年収は約680万円です。なお、地方公務員は自治体によって異なりますが、国家公務員と同程度、あるいは前後のケースが多く、例えば東京都の場合は平均年収は約670万円です。
一方、国税庁の令和3年分 民間給与実態統計調査によれば、平均年収は443万円でした。このことから、平均年収で比較すると公務員は民間企業の従業員の約1.5倍となっています。そのため、転勤することで年収が下がるケースも多いと考えられるでしょう。
また、公務員は福利厚生が充実しているケースが多いです。利便性の高い立地に宿舎(社宅に相当)があるケースでは、住居代を抑えることができます。民間企業に転職することで住居代が高額になったり、休日が減ったりする可能性もあります。
参考:人事院「令和4年国家公務員給与等実態調査の結果」
参考:人事院「給与勧告の骨子」
参考:国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」
公務員のおすすめの転職先や業種5選
民間企業への転職で自分の可能性を試してみたい方には、次の業界や業種がおすすめです。
- IT業界
- 不動産業界
- コンサルティングファーム
- ベンチャー企業
- 営業職
それぞれの業界・業種がおすすめの理由を説明します。
1.IT業界
医系技官や検察官のように、すでに特殊な資格を有し、その資格を持って公務員として働いている場合であれば、公務員ではなく医師や弁護士などの国家資格をベースとして転職先を見つけることが可能です。
しかし、公務員として獲得してきたスキルを活かした仕事は、実際のところあまり多くはありません。特別な資格を持たず、なおかつ公務員から民間企業への転職を目指す場合は、スキルを活かすのではなく、スキルを習得する前提で転職活動を進めていきましょう。
特に人材不足が多く見られる業界であれば、これからスキルを習得する方にも広く門戸が開かれていると考えられます。慢性的に人材不足が見られる企業も多い、IT業界などを視野に入れてみてはいかがでしょうか。
なお、IT業界に転職するなら、転職活動を始める前にプログラミングなどを学んでおくと良いでしょう。デジタル化を進めている企業も多いので、プログラミングの素養があるとIT業界以外にも転職しやすくなり、選択肢が広がります。
2.不動産業界
公務員として市民に対応する窓口業務を長くしていた方であれば、不動産業界への転職を検討してみてはいかがでしょうか。市民のニーズを的確に把握してきた経験を、不動産会社の窓口でも活かせます。
不動産業界を目指すなら、転職前に宅地建物取引士の資格を取得しておくと良いでしょう。資格は必須ではありませんが、採用に有利に働くだけでなく建築業界や金融業界でも評価されやすい資格のため、転職先の幅を広げることができます。
3.コンサルティングファーム
窓口業務の経験が長い方なら、コンサルティングファームへの転職も検討できます。コンサルティングファームでは転職希望者に対して、課題を適切に把握し、解決に導いてきた経験・実績を問うことが一般的です。窓口業務の経験を職務経歴書に記載し、面接などでもアピールできるでしょう。
ただし、単に市民の陳情を聞き、型通りの対応をしたというのでは実績としてアピールすることはできません。建設的な結果に結びついた経験、独自かつ独創的なアイデアを活用した対応かどうかを吟味してから、職務経歴書に記載するようにしましょう。
4.ベンチャー企業
ベンチャー企業は、企業としての歴史があまり長くないため、実務を担当する人材があまり揃っていないこともあります。人事や総務などの事務系の業務に携わってきた公務員であれば、実務スキルをアピールすることで転職活動を有利に進めていくことも可能です。
また、国家公務員として国の政策や社会的な流れを敏感に感じ取ってきた方であれば、職場環境そのものがアピールポイントになることがあります。俯瞰的かつ社会貢献的な視野を持っていると考えられるので、ベンチャー企業内でも時勢を読み適切な判断をする頭脳として役割が期待されるでしょう。
5.営業職
体力に自信があり、人と関わることが好きな方であれば、営業職への転職を検討できます。例えば、交番や消防署などの体力を問われる場所で勤務していた方にもおすすめです。
また、警察官や消防職員は公共性の高い仕事のため、顧客から公共心が高いなどのポジティブなイメージを持ってもらえる可能性があります。上手にアピールすることで、営業成績につなげていけるかもしれません。
営業職は業種を問わず、幅広い企業で必要とされている職種です。一度、経験しておくと、次回以降の転職活動に役立つことがあります。
公務員から転職する際のポイント
公務員から民間企業への転職活動を行うときは、評価されやすい、あるいはニーズの高い転職先を選ぶことが大切です。また、次のポイントを意識することも、転職活動を有利に進めていくために不可欠な要素です。
- ポジティブな転職理由を伝える
- 汎用的なスキルを身につける
- 資格を取得する
- 将来のビジョンを明確化する
- 転職エージェントを利用する
それぞれのポイントを説明します。
ポジティブな転職理由を伝える
採用面接の際に、転職する理由について尋ねられることがあります。特に公務員から民間企業へ転職する場合は、採用担当者は「なぜ安定した仕事を捨てて転職するのだろう」と疑問に感じ、通常以上に転職理由について関心を示すかもしれません。
転職理由はポジティブな印象を与えるものが望ましいです。例えば、「御社の積極的な海外戦略に感銘を受けました」「顧客目線での企業姿勢に共感しました」などの企業姿勢や業務に対する関心の高さをアピールすることは、ポジティブな印象を与えられるでしょう。
反対に「人間関係がうまくいかず、環境を変えたかった」などのネガティブな理由では、「採用したとしても、再び人間関係に問題を抱えたときはすぐに離職するだろう」と採用担当者が判断する可能性があります。
また、「そもそも人間関係にトラブルを抱えやすい人なのだろうか」と懸念されるリスクもあるでしょう。本当はネガティブな理由で転職する場合でも、上手にポジティブな言葉に置き換えて表現することが大切です。
応募先の企業を褒めたいという思いから、公務員としての仕事と比較したり、公務員について悪く言ったりすることがないように注意しましょう。採用担当者の中には「税金で給料をもらっていたのに文句を言うのは、人間性に問題がある」と判断する方もいるかもしれません。
汎用的なスキルを身につける
なりたい職業や転職したい企業が決まっているときであれば、その職種や業界で必要とされる資格・スキルを習得しておくことは強みになります。例えば、不動産業界への転職を希望する場合であれば、時間はかかっても宅地建物取引士の資格を取得しておくことができます。
しかし、特に業界を絞らずに転職活動を進めるときは、幅広い業界に対応できる汎用性の高いスキルを習得しておくことが必要です。例えば、高いコミュニケーションスキルや業務調整能力、あるいはエクセルやパワーポイントなどの基本的なパソコンツールを使えるスキルなどを習得しておきましょう。
資格を取得する
資格は転職活動において大きな強みになります。仕事の幅が広がるだけでなく、能力の有無を判断してもらいやすくなるので、転職活動を始める前に何か取得しておくようにしましょう。
例えば、事務系の職種に就くのであれば、日商簿記検定や社会保険労務士、秘書検定などもおすすめです。また、金融系の仕事なら、中小企業診断士やファイナンシャルプランナーなどを目指せます。
IT業界へ進みたい方はITパスポート試験や応用情報技術者、プロジェクトマネージャー、SAP認定コンサルタントなどもアピールポイントになります。他にも、英語能力を示せるTOEICや、地方での営業活動に欠かせない自動車普通免許、また、難易度は高いですが税理士や公認会計士、司法書士なども転職時に強みとなる資格です。
将来のビジョンを明確化する
採用面接の際には、転職理由だけでなく将来のビジョンについても尋ねられることが多いです。転職して何を実現したいのか、また、将来どのような自分になりたいのかを明確にし、具体的なビジョンを述べられるようにしておきましょう。
また、将来のビジョンが明確になると、面接時に予想もしない質問をされたときに対応しやすくなります。受け答えに矛盾が生じないためにも、まずは自分の言葉で次の3つをまとめておきましょう。
- 転職先で実施したいこと
- 転職先で習得したいこと
- 将来のあるべき姿と、あるべき姿を実現するために必要なこと
転職エージェントを利用する
公務員から民間企業へ転職する方は、そう多くはありません。そのため、職場の同僚や先輩に転職についての悩みを相談することは難しいと考えられます。
しかし、相談する相手がいないからといって、孤独に転職活動を行う必要はありません。転職エージェントに登録して、キャリアアドバイザーを味方につけて転職活動を進めていきましょう。
転職エージェントに登録すると、転職活動に必要かつ最新の情報を取得できるようになります。また、条件やスキルに合う求人案件を紹介してくれたり、面接対策や履歴書・職務経歴書の作成などのサポートも得られたりするので、効率的に転職活動を進められます。
転職エージェントを利用した転職活動のメリットとしては、非公開案件を扱っていることも挙げられるでしょう。非公開案件には高収入が期待できるものや、公務員としての経験を評価してくれるものもあるので、より理想に近い転職を実現できる可能性が高まります。
公務員から転職する際に評価されやすい能力やスキル
公務員が転職活動をするときは、「公務員は柔軟な対応ができない」「営利を意識した行動が取れない」など、あまり好ましくない評価を受けることがあります。その一方で、公務員ならではの能力やスキルが高く評価されることもあります。
特に評価を受けやすい能力・スキルとしては、次のものが挙げられるでしょう。
- 調整能力
- 事務処理能力
- コミュニケーションスキル
- 責任感の強さ
それぞれの能力・スキルについて説明します。
調整能力
公務員の仕事には、調整能力を必要とされるものが多数あります。例えば、異なる課との間の調整、委託業者との調整、市民とのスケジュール調整など、高いバランス感覚が必要とされます。調整能力は民間企業でも重視される能力なので、優れた実例があるときは職務経歴書などにも含めておくようにしましょう。
また、公務員は営利目的で業務を行わないため、調整の際に「自分(自分が所属する課・団体など)が得をしたい」という気持ちが働かず、公正な判断ができると考えられます。公正な行動は企業でも重視されるものなので、意識的に伸ばしておくようにしましょう。
事務処理能力
公務員としての配属先によっては、毎日処理する業務が多く、短時間で大量の事務作業が求められることがあります。また、公務員の仕事では正確さが評価される傾向にあるため、迅速かつ正確な事務処理能力を獲得できるケースもあるでしょう。
高度な事務処理能力は、民間企業でも高く評価される能力です。実際のところ、事務職だけでなく営業職やマーケティング職などのほとんどの職種において事務作業は不可欠な業務です。そのため、高い事務処理能力を持っていれば、ほとんどの職種で適性が高いと評価されやすくなります。
コミュニケーションスキル
コミュニケーションスキルは、公民関わらず、ほとんどの職場において重視されるスキルです。デジタル化が進み、人間関係が希薄になったといわれていますが、やはり業務を円滑に進めていくためには、コミュニケーションは不可欠です。そのため、高いコミュニケーションスキルを有しているならば、職場に順応しやすく、即戦力として能力を発揮できると採用担当者に判断されるでしょう。
公務員として市民と直接関わってきた方であれば、コミュニケーションスキルも高いと評価を受ける可能性があります。転職をするかどうかに関わらず、コミュニケーションスキルを高める努力をすることは、社会人としても必要なことといえるでしょう。
責任感の強さ
公務員の仕事は、高い責任感を求められることが多いです。業務の種類にもよりますが、最後までやり遂げることが重視され、評価される傾向にあります。
公務員として養った責任感の強さは、民間企業でも高く評価を受けると考えられます。任せられた仕事を最後までやり遂げること、チームメンバーや同僚に丸投げしないことなどは、場所を問わず評価されて然るべき能力です。
責任感の強さがわかるエピソードがあれば、採用面接の際に自己アピールの1つとして述べることができます。また、履歴書の長所の欄にも記載できるので、普段から意識的に責任感の強さを習得していきましょう。
ポイントを抑えて公務員から民間企業への転職を成功させよう
公務員から民間企業への転職は、決して無理な話ではありません。ただし、年収や福利厚生が下がる可能性があるので、生活が成り立つのかしっかりと検討しておく必要があります。
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