「産後ドゥーラ」について聞いたことはありますか?
産後、病院から自宅に戻り、何をしたらいいか困ったことはないですか?不安なママの産前産後をサポートする仕事が産後ドゥーラです。
今回お話を聞いたのは「どのお母さんも愛おしい」と語る佐藤さん。2021年現在6歳の息子さんを育てる現役ママです。
今の働き方に満足していても、今後結婚して、子どもを産んだ後の働き方はどうするかなど、将来の働き方について悩む方も多いかと思います。産後ドゥーラといった仕事を通して子育てをしながら働くとは?を覗いてみましょう。
■プロフィール
佐藤ゆう(さとうゆう/1979年4月20日生/東京都)
大学で精神保健福祉士の資格を取得
大学卒業後、精神保健福祉士として相談・生活支援の仕事に従事
2015年 長男出産
2018年 産後ドゥーラとして活動開始
精神保健福祉士の仕事から切り替え、現在は20代後半から始めたダンス分野の仕事と産後ドゥーラの2軸で活動中
産後の「何をして欲しいかわからない」を助ける救世主
産後ドゥーラとはどういった仕事ですか?
「産後どうしていいかわからない」「赤ちゃんを産んで、退院していざ家でどうやって過ごそう」「近隣に頼れる人がいない」など、不安なママの産前産後をサポートする仕事が産後ドゥーラです。
私は一般社団法人ドゥーラ協会で講座を受講し資格を取得したのですが、協会には「おっぱい以外の子育てはみんなに手伝ってもらおう」といったスローガンがあります。お掃除や洗濯、ゴミ出しから上のお子さんの送り迎えまで。家族全員のご飯を作ることもあります。
産後約6~8週間はできるだけ身体を休めてほしいです。お母さんが寝ている間に赤ちゃんの面倒を見ます。沐浴もします。1ヶ月検診など赤ちゃんとの外出が不安でしたら一緒に付いていくこともできます。実家の親御さんに頼むようなことだったらなんでもお手伝いします。
佐藤さんの実際のお仕事の流れを教えてください。
私の場合は、料理を頼まれることが多いです。おうちに伺い冷蔵庫を開けて、あるものでできるだけ多くの作り置きを作ります。2時間で、多いときは10品作っています。
産後ドゥーラの訪問で求められるのは、いわゆるレストランにあるような「〇〇料理」ではなく、簡単で自分が再現できる料理です。各家庭のリクエストに答えながら、産後のお母さんの体に負担の少ない料理を心がけています。
料理を作りながらお母さんと会話することもあります。料理後、掃除をして洗濯物を取り込む。赤ちゃんのお世話が心配なお母さんには、私が一緒にやってみせながら、自分でできるように見守り、サポートしています。私が抱っこしている間にお母さんがゆっくりご飯を食べる。そんな時間を提供しています。
「何かできないか」幸せの裏に感じた責任感
大学卒業後の仕事を教えてください。
大学では精神保健福祉士の資格を取りました。卒業後は精神保健福祉士として働いていました。精神保健福祉士は、心に病気や障害を負った人を応援する仕事です。代表的な仕事には、病院内のソーシャルワーカーや、福祉施設の職員・スタッフがあります。
産後ドゥーラの仕事をしようと思ったきっかけは何ですか?
私自身は、自分の産後ケアのために中野区の松が丘助産院に併設されている鍼灸院に通っていました。松が丘助産院の院長が一般社団法人ドゥーラ協会の代表理事・宗祥子さんです。そこで産後ドゥーラの存在を知ったことと、知り合ったお友達にドゥーラの資格を一緒にとらないかとたまたま声をかけてもらったことがきっかけです。
自分自身の産後は、ワンオペ育児ではあったものの、私と旦那の両実家が都内だったこともあり、子どもとの時間を楽しく過ごしていました。
当時、虐待や産後うつのニュースを耳にしました。自分は楽しく子育てをしているのに、苦しい思いをしているお母さんもいるのかと思うと、「私が何かできないか」と責任感に燃えましたね。
前職が精神保健福祉士で、対人援助をしていたことも、自分には何かできるはずと自分の背中を押すきっかけになったと思っています。当時息子は2歳だったので、自分の子育て経験も活きると思い挑戦しました。
半分家族〜成長を共有できる喜び〜
産後ドゥーラの仕事のやりがいは何ですか?
赤ちゃんの成長を一緒に感じられたときにやりがいを感じます。赤ちゃんの成長には毎回感動します。寝がえりができるようになった、表情が変わった、一つひとつの成長を側で見ることができるのはこの仕事の魅力です。
また、赤ちゃんに限らず、お母さんを含め、育児に携わる人の変化を間近で感じられるところに喜びを感じます。抱っこの仕方もわからないパパやママが何度か訪問するごとに、頼もしくなる。
初めはおっかなびっくり子どもを抱え、ゲップをさせていたお母さんが、定期的に伺ううちにしっかりと肩に担いで堂々としてくると、「かっこいい!」と感じますね。元気になっていくのを見るのは嬉しいです。
私が担当しているお子さんは0〜1歳半のお子さんが多いです。一番大きいお子さんが2歳。赤ちゃんからずっと見ている分、その子も私のことを半分家族といった認識で見てくれる。また、お母さんのいろんな話聞いたり、お母さんのやりたいことも応援できる面にもやりがいを感じます。
産後ドゥーラの仕事で大変なことや働く上で心がけていることはありますか?
産後ドゥーラの仕事は、個人のフリーランスとして請け負っています。会社に属していないので、グループで仕事をしているわけではありません。
自分の子どもが6歳で、突然体調を崩すことがあります。自分で代わりの人を探す必要があるところは大変です。自分で仕事を受けたり、スケジュール調整をしなくてはいけません。
自分一人しかいないため、仕事を受けられる量に限界があります。私の場合は、1日3件は厳しいです。自分自身の体がきつくなると、一つひとつの作業が雑になるので、1日2件までを心がけています。
予定を入れ過ぎないことも意識しています。余裕を持って落ち着いて仕事に臨まないと見落とすこともあります。お母さんのちょっとした様子や、本当はこういうことしたかったのかなとか気づけなくなることもあるので、自分のコンディションをよくしておくことを心がけています。
精神保健福祉士の仕事と通じるところはありますか?
産後ドゥーラとして家庭でお母さんたちの話を聞くと、精神保健福祉士時代に知ったピアカウンセリングと似たものを感じます。ピアとは仲間。同じような悩みや立場にある人同士で、悩みを共有し解決策を模索するカウンセリングです。
子育てはやってはいけない、ダメなことはたくさんある割に、絶対にいいと言われるものは少ない気がします。褒められる機会も少ないです。
先に乳幼児期の子育てを経験した立場として、「私も同じ経験をしたよ」「大丈夫だよ」と寄り添うことで安心してもらえたら嬉しいです。
小さな我が子を目の前に、責任感や不安、疲れに押し潰されそうになりながらも育児に奔走するお母さんたちは、本当に愛おしい存分だと感じます。お母さんだけでなく、お父さんを初め、子育てしている人みんなが大事にされることで赤ちゃんも大事にされると思います。
「正解のない育児」〜育児参加のハードルを下げる〜
産後ドゥーラへの想いを教えてください。
「誰も正解を教えてくれない」とぽつりと話してくれたお母さんがいました。「育児には正解ない」「お母さんの感覚を信じていい」そう言われるものの、最終的なジャッジはお母さんに委ねられがちです。毎日に大きなプレッシャーを抱えている感覚が伝わってきました。
今のご時世、核家族も多いです。親戚が少なく、そもそも赤ちゃんを身近にみることもないまま、親になる人も多いと思います。人に家のことを手伝ってもらうことは贅沢と思う人もいるかもしれません。
社会が変わりパートナーの育児参加も進みましたが、まだ女性の負担は大きいと思います。私は、使えるサービスは使った方がいいと思っています。私自身も当初は自分で全部やらなくてはいけないと思っていました。
育児以外の活躍の道がある女性は育児しながらその道でも活躍できればいいと思います。少しでも産後ドゥーラの仕事を通してお母さんをサポートすることで、多くのお母さんが自分の力を活かせる社会になっていけばいいなと思っています。
今後の佐藤さんの働き方について聞かせてください。
産後ドゥーラの仕事はこれからも続けたいと思っています。息子が大きくなり子育てが落ち着いたら夜の訪問も挑戦したいです。
自分の子供が大きくなるとどうしても育児の現役感は薄れてきます。0〜1歳半の乳幼児を育てていた頃と小中学生の子どもを育てるお母さんの関心が変わってくるのは当然だと思っています。共感だけでなくしっかり一人一人に寄り添えるサポートができるようになりたいです。
産後ドゥーラは、どちらかといえば、女性が女性を応援するイメージが強いです。日本の育児もこれからはお母さんだけのものでなく、パートナーや家族がより育児に参加していく時代になると思います。
実際にコロナを機に在宅でお仕事をされているお父さんと話す機会も以前より増えていきました。女性だけでなく、あらゆる人が育児に携わるハードルが下げられるような応援ができればと考えています。