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インタビュー

川口加奈(NPO法人 Homedoor 理事長)/ホームレス支援で「誰もがやり直せる社会に」

大阪市西成区には「あいりん地区(通称・釜ヶ崎)」と呼ばれる地域があり、ホームレス状態にある人が多く住む場所として知られています。

今回取材させていただいた川口さんは、14歳で釜ヶ崎のホームレス問題に出会い、19歳で認定NPO法人「Homedoor(ホームドア)」を立ち上げた方。現在も大阪市北区を対象に、様々な事情で住居がない方にホームレス状態から抜け出すためのサポートをしています。

SDGsで貧困をなくすという目標が掲げられていますが、貧困を極めるホームレスの人への偏見はなくなりません。

「誰でもホームレス状態になる可能性がある」と語る川口さん。大学卒業後も就職せず支援活動を続ける彼女のお話には、進路や仕事に悩む方にもヒントになる言葉があると思います。

■プロフィール
川口 加奈(かわぐち かな/1991年生まれ/大阪府出身)
認定NPO法人「Homedoor」理事長
2010年に「Homedoor」を設立。活動の注目度は高く、多数のメディアで特集を組まれているほか、日本を変える30歳未満の30人を選ぶ「30 UNDER 30 JAPAN」(フォーブス誌)、青年版国民栄誉賞とされる「第31回 人間力大賞グランプリ・内閣総理大臣奨励賞、参議院議長奨励賞」(日本青年会議所主催)など、多くの受賞歴を持つ。
Homedoor公式HP:https://www.homedoor.org

ホームレスの多様化、見えざる貧困

コロナの影響もあり、生活に困窮することは他人事ではないと改めて感じる世の中。川口さんは14歳の時に大阪の「釜ヶ崎」で路上生活する人たちの実情を知り、支援を行ってきたそうです。まずはホームレス問題の現状をお聞かせいただきました。

「ホームレス」の定義がそもそも難しいところがあって…。データとしては“路上生活者”の数は年々減っています。

でも実際は寝床を転々としていてカウントされていなかったり、ネットカフェ等の深夜営業店舗で夜を過ごす層がいたりします。生活に困窮した人たちのあり方が多様化していて、こういった状況を“見えざる貧困”と言うのですが、正確な数も把握できず、支援が届きにくい現状があります。

現在の状況としては、コロナが流行してから相談者数が1.5倍ほど増え、年間の新規の相談者が1000名を超えました。

コロナの前から、20代など若い世代の相談件数は近年増加傾向にあることも気がかりです。若いホームレスの人が増えているかどうかは、先ほど話したように明確な統計は取れていませんが、相談者の平均年齢は下がっています。中には10代の相談者もいます。

若い相談者の特徴として、家庭環境が複雑な方が多いです。若い世代で生活に困ったら実家に頼る人が多いと思いますが、それができない人もいる。

親が経済的に困窮している家庭もあります。進学する余裕もなく、高校や大学に行けないことで就職が難しくなり、非正規雇用になる。そのため生活が不安定になりやすいといった、連鎖的な要素もあります。

アンドセンターという個室型の宿泊施設を運営しているので、相談者の2割ほどが女性であることも特徴的です。厚生労働省の統計では、ホームレスの人の約5%が女性というデータがあるので、とても多い数字です。

人によってホームレスになる理由や事情は様々ですが、家庭環境など自分では選べない要因が絡んでいたりして、自らなろうと思ってなっている訳ではありません。

ホームレス状態から自力で抜け出す難しさ

ホームレスの人は年配の男性が多いイメージでしたが、若い世代や女性も例外ではないと聞くと問題をより身近に感じます。団体として取り組んでいる活動についても教えていただきました。

一連の支援活動のことを「6つのチャレンジ」と題して活動しています。

まずはアウトリーチとして、ホームレスの方に私たちの活動を知ってもらう。路上生活している人にお弁当や生活物資を配る巡回活動のほか、ネットカフェ・コンビニなどに広告ポスターを貼ってもらうなどして、団体に相談すれば支援を受けられることを広めています。

「6つのチャレンジ」
①情報を届ける
②選択肢を広げる
③暮らしを支える
④働くを支える
⑤再出発に寄り添う
⑥伝える

団体の存在を知って路上生活から脱出したいと思った方の相談を受け、生活や就労のサポートをします。具体的には、例えば生活保護という公的な制度がありますが、本来は受けられるはずの人が受けられないことがあるんです。

“水際作戦”と呼ばれる行為ですが、行政としては受給者を減らしたいという考えがあり、窓口での申請をなかなかさせてはもらえない。特に家がない人だと、生活保護の需給ではなく施設入所の対応をされることになるんですが、その施設では衛生面やプライバシーの問題があり、施設に入るくらいなら路上生活の方がマシだと言う人もいます。

相談したのが女性だと「仕事はあるでしょ」と、暗に水商売や風俗での就労を勧められ、保護の申請を断られるなんてことも。その結果、「相談したけどダメだった」と諦めるケースがあるんです。

そこでHomedoorでは、まずは家を借りられるようにサポートをし、施設に入らずに済む選択肢を提供しています。入居後も、収入の目処が立つまでは食料や生活用品等の支援もしています。

住民票がない方もいるのですが、それを復活させることで年金が受給できるようになるケースもあります。住民票を復活させるには戸籍謄本を取り寄せないといけませんが、それにも住所が必要だったり。仕事を探すにも、住所や電話がないと応募もできないこともあります。なので、何をするにもまずは家が必要なんです。

住居を整える支援のほか、「アンドセンター」という個室型の宿泊施設も運営していて、相談者の方が一時的に宿泊できる場所の提供も行っています。

問題を知ってもらうための取り組み

生活保護の申請を断られるなど、ホームレス状態から自力で抜け出すのは難しい状況があるというお話でした。まずは住環境の整備から生活再建をサポートしていくのですが、団体が行う取り組みはそれだけではありません。

ホームレス状態を“自己責任”と捉える世の中の風潮や偏見はまだまだ根強く、それがホームレス問題解決への足枷になっていることもあります。

そこで、問題についてよく知らない人たちに、知ってもらうためのアクションを起こしています。画期的な方法がある訳ではないですし、地道にやっていくしかありません。問題をわかりやすくポップに伝える工夫をしていっています。

ホームレス問題に関心がない人でも接点をもてるような仕掛け作りとして、現在行っているのは大きく2つあります。

1つは「HUBchari(ハブチャリ)」というシェアサイクル事業。

大阪では放置自転車も大きな問題になっていて、さらにある時、ホームレスの方の中には自転車修理を得意とする人が多いことを知ったんです。ホームレスの方に修理などの仕事をしてもらうことで就労機会の提供になり、自転車問題とホームレス問題の2つを解決することに繋がると考えました。

もう一つは「おかえりキッチン」というカフェの運営で、2021年6月にオープンしました。

こちらもホームレス問題とは関係なく、一般のお客さんが普通にカフェとして利用してもらえるお店です。普通のお店と違うのは、Homedoorの相談者らには無料で食事を提供し、支援からの卒業後も6食分の食事券を渡して、食事しにお店に足を運んでもらうことで継続的にフォローしていく仕組みです。

どちらも利用者はホームレス支援者とは限らないので、シェアサイクルやカフェの利用を通じて、関心がない人に知ってもらうきっかけになればと思っています。HPを見た方が「人のためになれば」とハブチャリを利用し始めてくれたこともあります。

“やり直したいと思ったらやり直せる社会”に住みたい

多角的なアプローチをされているようですが、活動する上でのやりがいやモチベーションについて質問したところ、意外な答えが返ってきました。

Homedoorの宿泊施設に泊まっていたのにいなくなってしまう人や、仕事のサポートを進めていたのに急にいなくなる人がたまにいます。ですが、それで私個人のモチベーションが下がるということはありません。

あくまで団体の支援は選択肢をつくるということ。困窮した状態から脱したいと思ったら脱することができる機会の一つに過ぎません。ホームレスの人をゼロにしようと思っている訳ではなくて、本人が抜け出したいと思ったら抜け出せるようにしたいだけなんです。

ホームレス状態には誰でもなる可能性があります。私も含めて、その可能性が全くない人はいないと思っています。

もし自分が生活に困窮し、ホームレス状態になった時、もう一度やり直せる社会とそうでない社会なら、前者で暮らしたい。そんな気持ちでやっているので、人のためにというよりは、自分がどういう社会に住みたいかですね。

活動をする上でモチベーションはないというか、むしろ最大の敵とも思っていて。モチベーションの上下に伴ってサポート内容の質が変わってしまうのは問題です。

他者を自分のモチベーションをあげる手段にもしたくないので、家を借りてくれて嬉しいからモチベーションがあがったという風に思わないようにしています。あくまで本人の気持ちが一番なので、自分の考えを押し付けないように気をつけています。

自分の人生に納得のいく選択を

自分が住みたい社会を実現したいという言葉を聞いて、モチベーションや熱意を語られるよりも信頼できる気がしました。そんな川口さんは大学在学中に団体設立し、卒業後は就職をしないという思い切った選択をされています。

設立に関しては、当初共に活動していた友人にそそのかされたようなところがあって、責任を持てずに始めてしまったという後悔もありました。

既存のホームレス支援団体で活動することも考えましたが、既存の団体に入るより、新しくアクションを起こし、選択肢がたくさんある状況にした方がいいなと。団体との相性もあるので、単純に数は多い方がいいと思いました。

自分の経験を踏まえて、進路に悩んでいる人に何か言えるとしたら、誰かに言われて選択するより自分で決めきった方がいいんじゃないかと思いますね。

人によって異なる状況があるとは思いますが、自分の人生に責任を持てるのは自分だけですし、納得のいく選択をしないと苦しむことになりますから。

起業する時、周りの人に「頭がちぎれるほど考えなさい」と言われました。何かを始めるなら、とにかく自問自答することも大切だと思います。

あと「あなたがしようとしていることは、過去に失敗した人もいる。だから先輩から学びなさい」という言葉もいただきました。具体的にはインターンを経験するのもいいと思いますし、色んな活動に参加してみるなどして視野を広げることも重要だと感じています。

やりたいことを実現するにはアイデアを考えたり、工夫することも必要だったりしますから、視野を広げるために動いてみるのがいいんじゃないでしょうか。

発信していくことも大切

最後に、今後の課題や目標について。また、この問題に関心を持った人がまずできることは何かをお尋ねしました。

現在、ご家族で相談に来られる方が増えています。単身用の部屋は用意できているのですが、今後はファミリーやペット連れの方にも対応できるようにしたいです。人員を増やすなどして、より強化していきたいと思います。

もうひとつの課題として、若い相談者が増えているとお話しましたが、不安定な雇用形態によって困窮しているケースが多いんです。かと言って単純に正社員を目指そうというのではなく、非正規のままでも生活を安定させるにはどうしたらいいか。ギグワークやフリーランスといった、働き方の多様化も踏まえて考えていきたいです。

団体の活動にはボランティアの方の協力もありますし、個人の方からのご寄付、企業からのご寄付で成り立っています。

もし問題に関心を持っていただけたら、誰でもできそうな支援としては、HomedoorのHPを人に紹介してもらうことも意味があると思います。

コロナ禍の現在も以前と変わらず、路上生活者の方にお弁当を配るなどの巡回活動を続けています。その方たちに支援活動を知ってもらい、関係を構築していくのですが、中には出会ってから6年経ってようやく相談に来てくれた人もいました。

自分の現状に諦めている人もいて、なかなかすんなりとは来てくれないんです。それでも、こういう選択肢があることを知ってもらうために活動を続けていきます。


【Twitterリンク】
川口加奈さん:川口加奈@Homedoor
Homedoor:認定NPO法人Homedoor

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Written by

トヨダヒロミ

トヨダヒロミ

大阪府出身。雑誌や広告を制作する編集プロダクションに約7年勤務したのち、フリーライターに。インフルエンサーなどの新しい肩書きや働き方に関心を寄せている。

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