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インタビュー

「育児で味わった感情は、すべて作品を生み出すエネルギー」母になっても夢を追い続けるアーティストの想い/チアキコハラ

妊娠中や出産を経験した女性の多くが直面する、産後のキャリア問題。中でも自分の裁量で仕事を決めていくフリーランスは、会社員とは少し違った悩みを抱えているかもしれません。

仕事復帰のタイミングや仕事の量、フリーランスを継続するか。産後の仕事がなくなってしまうのではないかという不安や、同業者に追い抜かされる焦りも募っていく…。会社員のように決まりやロールモデルが少ないからこそ、悩み続ける人は多いのではないでしょうか。

今回お話を伺ったのは、フリーランスでアーティストのチアキコハラさん。“ワンダーランド”のような独自の世界観を表現したアートで、国内外問わず多くの人を魅了してきました。

一昨年に出産し、子育て真っただ中の今、母そしてアーティストとしてどのように人生と向き合っているのでしょうか。産後の仕事観の変化、育児をしながら夢を叶える心得、出産や子育てが作品にもたらした影響などを伺いました。

■プロフィール
チアキ コハラ
・アクリルガッシュやボタンやレース、お菓子のパッケージなど、様々な素材を用い、絵を生み出すアーティスト。大きな耳や奔放に手足の伸びた女の子たちや動物を絵に登場させ、「ワンダーランド」のような世界観を描く。
・UNIQLO CREATIVE AWARD 2007 草間彌生賞 受賞
・イラストレーションチョイス2010年 宇野亜喜良 審査入選
・「Canvas@Sony2012」でグランプリを獲得。銀座ソニービルの全長38メートルの巨大アートウォールを手がける。
・その他、GUNZE、RedBull、SONYなど、数々の企業とコラボレーションした商品販売やプロジェクトを実施。国内外のアートフェアにも参加し、ライブペインティングも行なっている。
・一昨年に第一子を出産。現在は、育児をしながら、アーティスト活動を続けている。

“ワンダーランド”の世界観を生み出すアーティスト

ーはじめに、チアキコハラさんのことについて教えてください。どんな絵を描いているのですか?


アクリルガッシュやボタン、レース、お菓子のパッケージなどいろんな素材を使って、キラキラ、ワクワクする、まるで“ワンダーランド”のような世界観を表現してきました。真逆のものが入り混じった世界観が好きで、可愛さと毒気がミックスされた女の子や動物たちを描いています。


個展の開催だけでなく、巨大フィギュアや企業とのコラボグッズを作ったり、イベントでライブペインティングをしたり。最近は、民泊(ホテル)の内装のデザインも手がけました。

ーキャンバスだけにとどまらない絵を描かれているのですね。チアキさんは現在子育て真っ只中ですが、子どもを授かる前はどのように創作されていたのですか?

自宅で絵を描くときは、好きな時間に好きなだけ絵を描いていました。私はどちらかというと夜型なので、夜中から朝の2〜3時頃まで絵を描いて、午前中は寝ていることが多かったです。個展前のような集中しなければいけない時期は、軽くご飯を食べる以外、1日中机に向かって描いていましたね。

そのほかにも、イベントに出向いてライブペインティングをしたり、泊まり込みで民泊の内装を仕上げたり。日によって1日のスケジュールが異なりますが、変動する予定に臨機応変に対応できていたかなと思います。

「両立はできなくて当たり前」。大切なのは人生を“線”で捉えること

ーチアキさんは一昨年に第一子を出産されたそうですね。フリーランスには産休や育休のような制度がありませんが、チアキさんは、産後いつ頃から仕事を再開されたのですか?

出産した翌年、子どもを保育園に預け始めた頃です。それまでは、子どもと一緒に過ごす時間を大事にしたくて、仕事はお休みしていました。

仕事を再開してからは、前のようにバリバリ働くという感じではなく、少しずつ準備をしている感じです。今は、展覧会に出展する絵を描くために、資料や本を読んで構想を練っています。

ただ、保育園に預けているとはいえ、自分の時間は当然限られています。なんだかんだしていると、あっという間にお迎えの時間。その後も夕食を食べさせたりお風呂に入れたりしていると、つい私もうたた寝をしてしまうことがよくあって。子どもの急な体調不良で1週間看病するということもあります。

―育児と仕事の両立、むずかしいですよね。

そうなんです。子どもを保育園に通わせてから、育児と仕事のバランスは取れなくて当たり前だということに気づきました。

育児って抗えないことがたくさんあるじゃないですか。仕事を頑張ろうと意気込んでいるときに、子どもが急に体調を崩すことってよくあると思うんです。

私のような自宅で働くフリーランスであれば、子どもが家にいるときでも頑張れば仕事はできます。でも、私にはそれはむずかしくて。


以前、子どもと一緒に遊びながらも、仕事のことばかり考えていたことがあったのですが、結局どちらのことも中途半端になってしまったんです。自分は何をしてるんだろうと罪悪感に苛まれましたね。

だから、「子どもといるときは目一杯、子どもと向き合おう」って、割り切ることにしたんです。そうすると、ほんの少し気持ちが楽になりました。

―自宅でいつでも仕事ができる働き方だからこそ、“割り切る”ってむずかしそうですね。どういうことを意識して割り切っていますか?

自分の人生を“点”で考えないようにしています。たとえば、仕事を休まざるを得なくなったときに「今日は仕事ができなかった」ではなく、「子どもと一緒に過ごせる時間が取れてラッキーだったなあ」と思うようにしています。
長い人生で見ると、子育ては一瞬の出来事。今この瞬間の子どもと一緒に過ごせるのは本当に今しかないですもんね。

私には長年お世話になっている絵の師匠がいるんですが、産後、その方に言われた忘れられない言葉があって。
「家族のカラダは1つだから、大切にすればするほどいい作品につながる」と言われたんです。
家族のことを大切にすると自分も大切にされ、満たされた状態になる。満たされた状態で絵を描くって確かにすごくいいことだなと腑に落ちました。子育ても仕事も、結局は繋がっているんですよね。

「夢を叶えるための“準備”ができた」と思えたらいい

―育児をしているときは、なるべくお子様や家族のことに集中するようにしているんですね!では、仕事をするときに大切にしていることは何ですか?

当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、目標を立てることを心がけるようになりました。実は20歳くらいから、目標を紙に書く習慣をずっと続けていたんです。でも、子どもを産んでからは毎日が必死で、その習慣も目標も忘れかけていました。

そう気づいたのは、保育園の先生との会話がきっかけです。「ママはお仕事何されてるんですか?」という何気ない質問に「絵を描いています」と今までのように胸を張って言えなくなっていたんです。小さな子どもがいるからとか、空いた時間でやろうとか、どこかで甘えている自分がいて、「ちゃんと絵に向き合っている」という感覚がなかったんですよね。

その時、子どもに自慢してもらえるお母さんになろうと改めて思いました。子どもは今、話せる言葉がどんどん増えてきている時期で、私がデザインしたタオルを見て「これ、ママ描いたやつ」と言えるようになったんです。そうやって、「ママ描いたやつ」を増やしていくことが今の小さな目標です。

そして、人生の大きな目標は、「自分がいなくなった世界にも残り続ける作品をたくさん作って、多くの人の感情を動かすこと」。これは、子どもが生まれる前から変わっていません。 

―どちらも素敵な目標ですね。

その目標を達成させるために、まず、この1年はどんな年にするのかを決めました。その後は、1年を月、週、日ごとに落とし込んで具体的な目標を書いていくんです。

私の場合、子どもが小さいうちは仕事の時間がほとんど取れないと分かったので「準備の年」と割り切って考えました。
月ごとの目標は、たとえば1月は絵の構想を練る、2月は視野を広げるために本を読む、3月はホームページを更新する、といった感じです。すべて絵を描くこと以外の作業だけど、自分がまた絵をたくさん描いていくために必要な準備です。

最近は仕事を始める前に、1日にやることを細かく書くようにしています。そしてできたら消していく。自分はちゃんと夢に向かって、進んでいるということを可視化していきました。

―でも、育児や家事で忙しいと、1日の目標でさえも達成させるのがむずかしそうです…。

1日10分、無理なく続けられそうなことを目標にするのもいいと思います。10分だったら、もしできなくなったとしても、そこまで落ち込まないじゃないですか。あってもなくてもいい10分。だけど積み重ねていったら自分が強化される10分。

その10分を継続していたら「すごいやん、私」と自分を認められるようになると思うんです。たとえば、本を1日10分、1か月に1冊読んだら1年に12冊です。意識しないとなかなか読めない量じゃないですか。

そうすると、1年間作品をまったく生み出せなかったとしても「何も作れなかった」ではなく、「また作品を作るための準備ができた」と思えるはずです。
子育てをしていると、できていないことばかりに目を向けてしまいがちですが、できている自分を見てあげたいですよね。

子どもを授かり、絵にあらわれた変化

―子どもを授かった後、チアキさんが描く絵に変化はありましたか?

「何かが欲しい」という気持ちで絵を描いていたのが、「何かをあげたい」という気持ちで描くようになりました。

実は幼い頃、母が仕事でいつも家にいなくてさみしかったんですよね。いつも何かが欠けていて、満たしてほしくて。昔から不安なことがあるたびに、「誰か、大丈夫って言って」と口癖のようにつぶやいていたくらいです。

そんな満たされない気持ちをそのまま作品にして、『Gimme a hug(抱っこして)』や『mammy!(ママ!)』というタイトルの個展を開いたこともあります。喧嘩している子どもの絵を描いたり、意地悪でひねくれた女の子の絵を描いたりしていましたね。

でも、子どもが生まれてからは、その欠けていたものがどんどん満たされていったんです。

―どのようにして、心が満たされていったのですか?

あれだけ欲しがっていた「大丈夫」という言葉を、子どもが生まれてからは、自分が我が子に言うようになっていたんです。そうすると、不思議なことに同じ言葉を自分自身にもかけてあげているような気がするんですよね。

ようやく言ってもらえた「大丈夫」という言葉。その言葉をかけてくれたのは、母親になった私自身だったんです。

それからは、欠けていたものがだんだんと埋まりはじめ、満たされた気持ちで絵を描けるようになりました。

大丈夫。いつでも、何にだってなれる。

―出産後のキャリアに不安を抱える人に何を伝えたいですか?

状況が許すかぎり、自分が幸せだと思う道を選んだらいいんじゃないかな。世の中これだけたくさんの人がいるんだから、どの生き方がすごいとか偉いとかないじゃないですか。

結局は自分が幸せかどうかだと思っていて。どんな仕事に就こうが、どんな生き方をしようが、自分が幸せだと思う瞬間を日々感じられたらとっても素敵だなと思います。

そんなハッピーな自分なら、どんなときでも前向きに決断できるはずです。フリーランスを続けたり、専業主婦(主夫)をやってみたり、会社員に転身したり。人生いつでも何にだってなれるから、大丈夫。

―「人生いつでも何にだってなれる」…。そう言い切れるのが、素敵です!

今まで自分が一生懸命向き合ってきたものがあるから、そう言えるのだと思います。

子どもが生まれたことで確かに変わった部分もあるけれど、積み重ねてきた想いや、向き合ってきた時間が消えることはありません。

だからこの先ピンチが訪れても、過去の自分が背中を押し、なりたい自分が手を引っ張ってくれると信じています。

今の私は未来の自分を救ってあげられるような私。そんな自分でいられたら、きっと大丈夫なんじゃないかな。

―ありがとうございます!最後に、子どもを出産してから今までの約2年間を振り返って、今思うことを教えてください。

私は、経験こそ人生の宝物だと思っています。楽しいことだけでなく、つらいことや葛藤も全部含めて、いろんな感情を味わうことが人生の醍醐味だと思うんです。

私にとって出産や育児は初めての経験で、戸惑うことだらけでした。慌ただしい日常に振り回されながら、もどかしさや葛藤、不意に訪れる幸せ、ごちゃごちゃに混ぜられて爆発しそうな感情などたくさん味わいました。


でもこの経験のおかげで、今まで味わうことのなかった感情が補完されてとてもラッキーだと思っているんです。私にとっては、感情そのものが新しい作品を生み出すエネルギーになっているから。

落ち込む自分も、メラメラとやる気に満ち溢れる自分もまるごと愛し、そして愛されたい。アーティストとして母として、他の誰かと比べることなく、今日も笑って生きていきたいです。

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Written by

上野 彩希

上野 彩希

大学卒業後、IT企業、ホテルのフロントスタッフを経て、2021年にフリーランスのインタビューライターとして活動を開始。 子育てと仕事の両立に奮闘する今、「女性のキャリア」をおもに取材・執筆しています。目指すのは、一歩踏み出す勇気を提供できるような記事をお届けすること。

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