コロナ禍は、日本の経済に大きな影響をもたらしましたが、その中でも飲食業界は、特に大きな打撃を受けました。
しかしその渦中にあっても、飲食業界の復興を信じ、支援し続けた企業があります。それが、福岡を中心に事業を広げる株式会社botto(ボットー)。
運営している飲食店向けアプリ「botto」は、大きな波に沈むことなく、現在も躍進を続けています。今回は、bottoを運営する株式会社botto代表の水田匡俊さんにお話を伺いました。
■プロフィール
水田 匡俊(みずた まさとし)
1985年4月静岡県生まれ。2005年、同志社大学経済学部入学。在学中から起業を意識し始める。卒業後、株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア)にて求人広告に携わる中で、ITツールに関心を抱き、株式会社SRA西日本に大学向け学習支援システムの営業職として転身。その後、2018年1月、株式会社and GOを設立。2021年5月に商号をbottoに変更。
飲食店のスタッフコミュニケーションを円滑にするbotto(ボットー)とは?
ーbottoはどんなサービスなのか教えてください。
飲食店の店舗スタッフ用で使われる、チームビルディングツールです。システム内に、店長やオーナーをはじめ、スタッフ全員が書き込める掲示板があり、そこでのやりとりを通じて、店舗内のコミュニケーションを円滑するという目的があります。
ー具体的にはどのように使うのでしょうか。
まずは、スタッフ全員、仕事の終わりにアンケートに答え、今日の仕事ぶりに点数をつけ、取り組んだことや気づいたことを書き込みます。その内容を全員が閲覧でき、返信できます。
掲示板には、日々の気づきや「こうしたらもっと良くなるのでは」というアイデアを書くことができます。それに対して、店長が「いいね、採用しよう」などと店舗のカイゼン活動にスタッフを容易に巻き込むことができます。
さらに掲示板上のやりとりでの決定事項や伝達事項は見逃しがないよう、Todoリストでの管理もできます。
また、これまでの書き込みをまとめて1冊の本に綴じ、アルバイトを辞めるスタッフにプレゼントするオプションもあります。すごく喜んでもらえるんです。このノートを就職活動に役立てたりして欲しいと思っています。
ー飲食店がbottoを導入することで、どんな成果がありますか。実際のユーザーの声と合わせてお聞かせください。
たくさんあるのですが、大きな成果としては、これまで見えてこなかった部分がクリアになることでしょうか。
日々接客しているスタッフは、お店の小さな課題や改善案を常に感じています。そうしたことは口頭で伝えづらくても、bottoには書きやすいようです。
実際、「4番テーブルがガタガタしている」とか「この商品の盛り付けはこのやり方の方が良い」といった、店の改善点や提案事項がbottoに書き込まれ、店長が改善策を決定するという流れで使っていただいています。
お店の改善サイクルが活性化しますし、アルバイト側も、自分の意見が反映されてお店が良くなると嬉しく、自主性も上がります。また、bottoで「振り返り」をすることで知識が定着して仕事能力も上がり、仕事が楽しくなっていくようです。
店のオーナーや店長からも、好評をいただいています。
例えば、店長とアルバイトの関係性など、本部からはわかりにくいですが、bottoを導入したことで、クールに見えていた店長がアルバイトにとても慕われていたとわかったという話も聞きました。人間関係も見えやすくなるんでしょうね。
また、ある店長は、紙の伝達ノートはなかなか書いてもらえないけど、bottoならみんな書いてくれるし、改善点や決定事項も浸透させやすいと話してくれました。おとなしいスタッフから意見が上がってきたとか、スタッフがイキイキと仕事をするようになったということも聞きます。
たくさんのオーナーや店長から、人が育ちやすくなった、人が辞めなくなったと感謝されています。サービス業の離職率の理由に、教育が行き届かない、自主性に任せがちなどがありますが、bottoだと、掲示板を通して従業員のフォローができるからでしょう。
今では、「仕事後にbottoに記入する」という内容を、アルバイトの雇用契約書に入れる企業も出てきました。
「振り返り」は飲食店運営に活かせる!と感じたことから、システム化へ
ー「振り返り」が、人材育成・人員フォロー・店舗活性化につながるというのはいいですね。なぜ、bottoを開発することを思いついたのですか?
もともとサッカーをやっていて、高校時代「サッカーノート」という練習日記のようなものをつけていたんです。私自身はあまり真面目に取り組まなかったんですが、きちんと続けた同級生は、プロになったんですよ。
また、大谷翔平選手や中村俊輔選手など一流の方も、そうした「振り返り」を習慣にしているんですね。そんなことから、「振り返り」ってすごく大切なんだという認識がずっとありました。
そして、システム会社に在籍時、大学向けの授業支援・学習管理システムツールの営業開発支援をしたことも大きいです。そのツールを導入している大学では、授業の終わりにアプリでアンケートを取るのですが、学生たちは感想をたくさん書いてくるんですよ。驚きました。もしかして、今の10〜20代ってテキストコミュニケーションが苦にならないのでは?と考えるようになったんですね。
その後起業し、飲食店支援の事業を起こしたいと考え、飲食店ヒアリングを重ねたところ、ある店長から「不明点はないかと聞いても言ってくれないのに、紙を渡したらすごくたくさん書いてくれた」という話を聞きました。やっぱり、若い世代はテキストコミュニケーションに強いんだと確信しました。
そこで、bottoの前身となるシステムを作ってみたら評判が良くて、本格的にシステム化を決めました。
ー起業してすぐに、bottoの開発を始めたのですか?
いいえ。最初は、以前の職種で関わってきたような、大学向けの授業支援・学習管理システムが、飲食店のマネジメントシステムに使えると考えたんです。いわゆる動画マニュアルシステムです。でも、現場から使いづらいという意見が出て、役に立たなかったんです。
考えたら当然です。私たちは飲食店の課題をつかんでいなかったのですから。彼らも気づいていない課題を見つけないと、いいシステムはできないと考え直しました。
そこで、飲食店の店舗会議や社内全体会議などに入れていただき、社長、マネージャー、アルバイトスタッフなどから色々話を聞いたことで、飲食店のコミュニケーションを円滑にするツールを思いつきました。
ーなぜ飲食店に特化したのでしょうか。
最初はサービス業全体を対象に考えていました。私たちは「仕事観を変えたい」、「働くのが楽しい世の中にしたい」という理念を掲げているのですが、仕事を始めるのって大抵の人が10代後半から20代前半で、アルバイトなどからですよね。
そして働く場所は、サービス業であることが多い。さらに調べたら大学生のバイト経験は飲食店が中心とわかり、多くの人にとって仕事の原体験は飲食業なのではと仮説を立てました。
あとは私自身、外食が大好きなんですが、接客態度が悪い店員がいたら悲しくなる(笑)。でも、飲食店を楽しく働ける場にすれば、そんなことも起こらなくなるのではと考え、飲食店に特化することに決めました。
大きな試練だったコロナ禍を経験し、さらに想いがクリアに。
ー起業されたのが2018年、bottoが誕生したのが2019年ですが、2020年からコロナ禍に突入して、飲食店は苦難な時期に入りました。
コロナ禍突入からしばらくは、絶望感でいっぱいでした。bottoを飲食店に特化させたことが果たしてよかったのか悩んだし、実際、他の業種でも使えるツールにする方がいいかもしれないとも考えました。
ただ、当時は起業したばかりで、社員は私1人だった上、様々な融資もあり、気持ちに余裕があったんです。だから、頑なに飲食店特化にこだわることができました。すでにbottoを導入している企業も、契約を解除せず、ずっと続けてくれたんですよ。
また、この時期は、時間の余裕もあったので、飲食店の存在意義をすごく考えました。そこで改めて、飲食店での食事は、食べることだけではなく、人と人の関係作りの場でもあり、根源的な営みだと思ったんです。だから、飲食店はなくならないし、テイクアウトが主流になるとも考えませんでした。
コロナ禍があったからこそ、事業としてしっかり根を張れた気がします。今となっては、ブレずに飲食店にこだわり続けてよかったと思っています。
お客様と一緒に大切に育てたbottoで、日本人の働き方がもっと評価されるように。
ー現在は、13社71店舗がbottoを使われていて、順調に導入数も伸ばされていますね。
7月で、掲示板の書き込み件数は全部で12万を超え、たくさん使ってもらえていることを実感しています。お客さんから新規店舗を出すからその分契約を増やしたいともよく言われます。
ここまで来られたのは、botto開発に関わったスタッフはもちろん、お客さんも様々な意見を言ってくださり、一緒にシステムを育ててくれたからこそです。
福岡中心に展開してきましたが、最近、大阪に常駐スタッフを配しました。東京の飲食店からも、問い合わせをいただいています。今後は全国展開して、あらゆる飲食店に使ってもらいたいですね。
今はWebアプリですが、ネイティブアプリへの展開も検討・実施していきます。
ー今後、bottoを通して、世の中に提案していきたいことは?
bottoを通して、「仕事は楽しい」と認識してもらい、従来の仕事のあり方を変える一端となりたいです。現在の日本では、成果主義など、欧米のシステムが主流になりつつありますが、みんなで支え合う働き方が見直されて、日本らしい働き方として、世界へ輸出できるようになればいいですね。
■株式会社botto
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