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インタビュー

「遊んでいたら、褒められる」企業の挑戦/ヴァンパイア株式会社代表 加藤洋平さんインタビュー

ゲーム開発やグラフィックの提供、SNS運用などの事業を手掛けるヴァンパイア株式会社は「遊んでいたら、褒められた」を社内スローガンに掲げる大阪のスタートアップ企業です。

同社の目的の一つが「ヴァンパイア達の楽園を作ること」。
ADHD(多動性注意欠陥障害)の傾向が強くて悩んでいた経験があるという代表の加藤洋平さんは、個性の強いメンバー達が自由に活躍できる場を作りたいと考え、2019年7月24日に会社を立ち上げました。

最近では、人気作曲家のGunさんとコラボした楽曲「ジョーカー」を社歌としてリリース。社名や事業名が一切歌詞に含まれない斬新さやクールな歌の仕上がりは、TwitterやLINE NEWSでも話題になりました。

会社を立ち上げるまでの経緯や社歌リリースの背景、そして今後取り組んでいく「挑戦」について、加藤さんにお話を伺いました。

理想のチームを守り、活躍の場を作るために


ヴァンパイア株式会社を設立する前、僕はある企業でイラスト制作などを手掛ける事業の部長職でした。事業部のメンバーとは「ほぼ理想のチーム」と言える関係を築けていたと思います。
ところが様々な情勢の変化を受け、事業部長としてリストラを考えなくてはならない状況に陥りました。自らの職務と「仲間達を手放したくない」という思いの間で悩みました。

そうして思いついたのが、事業を譲渡してもらってメンバーと一緒に独立起業すること。いわゆるMBO(マネジメント・バイアウト)に近いかたちですね。
方向性を決めてからは、互いのビジョンを共有するためにチームメンバーと対話を重ねました。個人面談やメールで互いに言葉を交わしながら「自分たちがどうありたいか?」を一緒に見つめ直していきました。

「こいつらと一緒にいたい」。僕を突き動かしていたのはその思いだけでした。
独立志向はそれなりにあったものの、前々から準備を進めていたわけではなかったため、事業譲渡から独立に至るまでには予期せぬトラブルもたくさんありました。
だからこそ、ついてきてくれたメンバー達に対しては「俺と結婚してくれ。お前ら俺の嫁や」という思いでしたし、実際に似たようなことを言葉でも伝えました。

大切な仲間達が、個性や能力を自由に発揮できる場を作りたい。そのために、ヴァンパイア株式会社を立ち上げた後も働き方を縛るようなルールは設けませんでした。成果を出せるなら、遅刻や早退、昼寝も自由。
「遊び」を大切にしているので、新型コロナが流行する前は昼休みにゲームやカラオケをしていることも多かったです。

コロナ禍での試行錯誤と新たなチャレンジ


コロナ禍で全員がリモートワークに移行してからは、職場環境をどう整えるか、そしてどう売上を上げていくのかに苦心しました。2020年の2月頃、コロナ報道を目にする中で「このままだと会社が危ないかもしれない」と危機感を覚えました。

メンバーの自宅での作業環境の構築費や採用予定だった人材の継続雇用にかかる人件費などと様々な支出が増える一方で、外出自粛ムードのなか営業回りを積極的に行うことも難しい状態に悩みました。
会社を潰すわけにはいかないですから、さんざん迷ったものの借り入れを増やすなど出来ることから対策を進めていきました。

情勢が悪化する中で、2020年5月~7月くらいになると想定どおり売上が落ちていき、これまでの単月黒字から赤字へと転落。オンラインのツールを使ってメンバー同士のやりとりは進めていましたが、最初は互いの仕事の状況も把握しづらい状態でした。

それぞれの自宅でみんな力を尽くしてくれていましたが、メンバーへの精神的なケアも難しく、楽しみながら仕事ができる環境をどうすればオンラインでも作れるか、頭を悩ませましたね。

仕事と遊びを両立したコミュニケーションをバーチャルオフィスでもとれるように、色々とメッセージの投げ方やツールの使い方を工夫するなど試行錯誤を重ねました。
結果的に今では、全体チャットで仕事の打ち合わせをしていても、休み時間になれば「ゲームするんでどいてください」と業務のやり取りに割って入れるような場を作ることができています。

立ち上げ当初の順調な滑り出しと比べると、第2期は表に出ていないものも含めてアイデアを無数に試しては失敗を繰り返し、新たな方向性を模索した1年間でした。1年間にわたって毎日営業をし続けたオンラインバーもその試みの一つですね。バーチャルでの交流の場をどう作ればいいのか、どうすれば収益化していけるのか。企画を進めながら色々な経験を積むことができました。

先行きの見えない中で、それぞれ不安はあったでしょう。生産性を考えて人員整理せざるをえなかったメンバーやチームを去っていったメンバーは、合わせて5~6人ほど。
ただトータルで見ると、業務委託スタッフや学生スタッフからの応募もあって、コロナ前よりも常勤メンバーの数は増えました。

どんなかたちであれ、僕達と関わるメンバーには仕事を楽しんでもらいたいですし、出来上がった成果を誇りに思ってほしいと思っています。だからこそ、みんなの「やりたいこと」をもっと仕事に変えていきたいですね。

クリエイターに「社歌」で新たなチャンスを作る


実力があるのに活躍できる場が少ないアーティスト達が、僕達のつながりには多いんです。そういった方々の力を集めて、映像作品を作ってみたいという思いが以前からありました。

新型コロナで落ち込んだ業績が回復し始めた2020年11月、僕は思い切ってTwitterでこんな呼びかけをしました。

夢をみてる人夢を嗤われている人
夢を諦められなくて震えてる人

そんな人の背中を押す映像作品(5分)を作ることにしました。
一緒にやりたい人を集めます。

・歌いたい
・映像編集したい
・絵を描きたい
・宣伝したい
・叫びたいことがある
・夢を諦めたくない!

そんな人はご連絡ください

このツイートに対して「手伝いたいです!」と想像以上の反響が寄せられました。集まってくれた方々のアイデアをまとめていくうちに、「かつて幼馴染だったヴァンパイアとヴァンパイアハンターの再会」というストーリーが生まれたんです。

生まれたストーリーをどう形にしていくのか。今回は、ヴァンパイア社の周りにいるアーティスト達のなかでも、音楽作品を作っている方々にフォーカスしました。
本当にクオリティの高い音楽作品を作っているのに、仕事が少なくて経済的にも楽ではないクリエイター達。彼らの仕事には価値があると思うからこそ、もっと活躍の場を生み出したかったんです。

仕事を作るためにゲーム業界を中心に営業をかけていきましたが、どうしても案件数が少なくてクリエイター達に回らない。
これは「新しいマーケットを作るしかない!」と思いました。時間はかかるかもしれませんがとびきり面白い未来に向けて土台を作っていこうと決めたのです。

そこで注目したのが、かつて昭和で流行った「社歌」の文化でした。
社員みんなが朝礼で会社を褒め称える歌を唱和するというのは個人的にどうかと思いますが、会社に歌があるという文化そのものは面白いですよね。

社歌についていろいろ調べていくうちに「現代に合ったやり方で復活させられないか?」と思いつきました。会社は、日本全国で何百万社とあります。それぞれの会社で社歌を作るのがもし当たり前になったら、アーティストが足りなくなるほど大きな市場になるでしょう。

思いついたからにはまず、自分の会社でやってみようと思いました。「会社のため」「社長のため」ではなくて、あくまでも作品ありき。
映像を視聴する人が純粋に音楽を楽しんで、喜んでもらえるような作品を作ろうと決めました。

「『偶然の再会』をテーマに若い世代が口ずさめる社歌を!」ということで生み出されたのが、作曲家のGunさんとのコラボ曲「ジョーカー」です。楽曲を聴いて、いいなと思った人が詳しく調べていくと会社名が出てきて驚く。そんなサプライズ的な仕掛けになっています。


会社の世界観の一部を歌にしたものが社歌だとするなら、社歌は一つだという固定概念にとらわれる必要はないと思っています。どんな会社にも様々な側面がありますから、光の当て方を変えるだけで様々なテイストの社歌を生み出すことができるはずです。

実際、僕達はすでに第2弾の社歌リリースに向けて準備を進めていて、いずれは社歌だけのアルバムCDも作りたいと思っています。楽曲のバリエーションを用意できれば色んな人に刺さりやすくなるのでマーケティング的にもよいですよね。様々な動画配信サービスやSNSを活用して、これからも発信を積極的に行っていきたいと思います。

法人3期目の「挑戦」と仲間達と描く未来図


2021年6月から、法人3期に入りました。新型コロナの影響を受けて厳しかった2期を越えて、3期はより大きな「挑戦」に向かっていきます。

僕達はアートの会社ということもあり、開発力が特段に高いとは言えません。だからこそ持ち味を一番活かせる上流部分から関わっていき、自分達でコントロールしやすい環境を作っていきます。

ゲーム制作であれば上流工程の企画段階から開発まで、アニメの企画であれば製作委員会の立ち上げからグッズ制作やアニメツーリズムなどのイベントまで、様々なプロジェクトを進めていく予定です。

今期にまいた種が花開くのは2023年や2024年になるかもしれませんが、将来的にはヴァンパイア株式会社をコアに、弊社の価値観に共鳴してくれる方々が活躍できる仕事をもっと増やしていきたいです。

「自分のやりたいことが出来そう」「面白いことができそう」と僕達の会社に興味を持ってくれる人はたくさんいますし、「遊んでいたら、褒められた」というコンセプトに共感してくれる人は、みんなヴァンパイアの仲間だと僕は考えています。

でも、今はまだ全ての仲間を受け入れるだけのキャパシティが僕らの会社にはありません。仲間たちと一緒に楽しめる受け皿を増やすべく、もっと事業を拡大して売上を増やしていきたいですね。

最終的には、プロジェクト単位で分社化しながら、それぞれの会社の経営者メンバーに決済権を渡していけたらと考えています。日本全国に支社やサテライトオフィスを増やしていきながら、M&Aも視野に入れつつ、チームのみんなが「遊んでいたら褒められる」環境を当たり前にしていきたいです。

「ヴァンパイアの仲間達がやりたいことをやって生きていける」そんな未来に向けて、ヴァンパイア株式会社はこれからも挑戦を楽しんでいきます!

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Written by

Yulie TADA

Yulie TADA

大学および大学院でのインタビュー調査と論文執筆経験を土台にライター起業。各種メディアにて、幅広いジャンルのリサーチ記事やインタビュー記事を手掛ける。その他、Kindle原稿やYouTubeシナリオ、プロフィール・自分史、小説作品も執筆。現在は、他クリエイターと連携しながら各種制作を行っている。世界のどこかから生きた文章をお届けする旅人ライフを今後叶えていく予定。

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