退職が決まり、有給休暇を全て消化しようと思っていたけど無理だったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、そんな有給休暇は買い上げができるのか?という疑問にお答えしていきたいと思います。
有給休暇の買い上げについて
結論から言えば、有給休暇を買い上げることは原則として違法とされています。これは行政解釈によるものであり、
「年次有給休暇の買い上げの予約をし、これに基づいて法第三十九条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法第三十九条の違反である。」(昭和30年11月30日)(基収4718号)(※1)
との通達が出ています。
この法とは「労働基準法」のことであり、その第三十九条に有給休暇のことが記されています。
※1 労基法ナビ
有給休暇について
厚生労働省は「有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、『有給』で休むことができる、すなわち取得しても賃金が減額されない休暇のことです。」と述べています。
労働基準法第三十九条には、
「第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。(※2)」
とあり、雇い入れ日から6か月継続し、全労働日の8割以上の日数を出勤した場合、必ず10日間の有給休暇を付与しなければならないとされています。
有休を買い上げすることは企業が労働者の休息を奪っているという解釈になるため、有休の解釈は原則違法となっているのです。
※2 e-gov 法令検索 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
例外はアリ!
有給休暇の買い上げは違法という解釈ですが、例外的に買い上げても違法にならない場合があります。まず1つめが「労働基準法の規定を上回って付与した分の有給休暇」です。
前述したように、有給休暇は半年以上勤務し、なおかつ全労働日の8割以上の日数を出勤した場合、必ず10日間付与されます。これは正社員だけの権利ではなく、パートやアルバイトであっても同じです。10日間という日数は勤続年数によって増えていき、6.5年以上勤務している労働者には20日の有給休暇が付与されます。
そして、この労働基準法の規定を上回った分の有給休暇は、買い上げても違法ではない、という解釈が通例となっています。これはそもそも有給休暇が労働者のゆとりある生活を保障するために付与するという狙いがあり、規定以上の有給休暇に関しては言及されておらず、「インセンティブ(報奨)」扱いになるから、という考えによるものです。
もし有給休暇が、会社の福利厚生として労働基準法の規定を上回って付与されていた場合、買い上げできる可能性はあると言えるでしょう。
そして2つめが「有給休暇が消滅してしまう場合」です。
労働基準法第百十五条には、
「第百十五条(時効)この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」
と明記されています。
つまり、有給休暇の期限は付与された日から2年間ということ。もし2年の間に有給休暇を申請しておらず、権利が消滅してしまう場合は、買い上げが認められる場合があります。
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退職前の有休休暇は買い上げできる?
では退職が決まった後の、使わない有給休暇についてはどうか。
会社による
結論から言えば、「会社による」としか言いようがありません。退職前の有給休暇を買い上げた例は確かにありますが、そもそも行政通達として「買い上げは違法」とされており、例外の部分に関してはグレーな点が多く、そこまで踏み込んで明記している会社自体少ないと言わざるをえません。
もちろん、就業規則に有給休暇の買い上げについて明記している会社もありますので、もし気になる方は一度、就業規則を確認してみましょう。そしてもし就業規則に明記が無い場合、上司や人事部などに相談してみると良いでしょう。
買い上げの制度は無くても違法ではない
そもそも有給休暇は法制度として定められているからこそ導入されていますが、「買い上げ」については行政通達のみで法が制定されているわけではなく、会社に任されている範囲です。なので、もし買い上げの制度が無かったとしても、違法だと言うことはできません。「無いよ」と言われればそれまでですし、必ず買い上げてもらえる、というわけではないと覚えておきましょう。
その場合、折角ある制度を使えないのは勿体ない気分になりますよね。本来の目的で言えば有給休暇は買い上げなどではなく「体を休める」ためのものですので、ぜひ有休は取得していきましょう。
積極的に休みを取ろう
引き継ぎなどで退職まで休めない、という声は多く聞かれます。しかし、あなたが退職前に有給休暇を申請し、それを会社側が拒否することは違法です。
労働基準法附則第百三十六条には、有給休暇を取得したことを理由に、不利益な扱いをしてはならないと明記してあります。
「使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。(※2)」
不利益な取扱いとは賃金の減額などを指し、有給休暇の取得を抑制するようなもの全てが含まれます。
よって、職場が大変なことになるのではないか、と様々な理由で有給休暇を取ることに引け目を感じてしまうかもしれませんが、原則として有給休暇は本人が指定した日に取れるもの。
加えて労働基準法第百十九条には罰則の規定があり、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる(※2)」と定められています。有給休暇の取得を認めない場合にはきちんと罰則があるので、あなたはきちんと権利を主張することができる、ということは覚えておきましょう。
計画的に休みを取っておこう
働き方改革の一環として、2019年から「年次有給休暇を10日以上付与された労働者に対しては、5日以上の有給休暇を取らせる」ことが会社側の義務として制定されました。
ただでさえ退職するだけで気まずいのに、それまでに有給休暇を申請する、というのもやりにくいですよね。そうならないためにも、こういった義務ができたことを知った上で、有給休暇をコツコツ消化しておきましょう。
まとめ
今回、有給休暇は買い上げできるのか?という疑問にお答えしてきました。忙しい中で引け目を感じてしまうこともあるかもしれませんが、有給休暇とは労働者の権利です。買い上げ制度が合っている、という方でも、法制度として制定されていない以上、買い上げしてもらえず泣き寝入りする可能性も出てきます。ぜひ有給休暇は取得していきましょう。