就職活動の際、しばしば「フェルミ推定」と呼ばれる類の質問をされる場合があります。フェルミ推定はきちんと対策をしておかないと、面接官を納得させるような解答をすることが難しいでしょう。そこで本記事では、フェルミ推定の考え方や評価対象などを解説します。
フェルミ推定とは?
企業は就活生に対して、フェルミ推定と呼ばれる「問題(質問)」を出題することで、その人がどのような思考をもっているのか見極めようとしています。本章ではフェルミ推定の質問意図(目的)や企業の傾向、注意すべき3つのNGについて解説します。
出題の目的
フェルミ推定とは、あえて正確な数字を把握しにくい事柄を質問するものです。例えば「〇〇(国名)の△△(地名)には、ピアノの調律師が何人いるでしょうか?」といった問題が、フェルミ推定に該当します。
では、なぜ企業はこのようにわざわざ正確に答えにくい質問をするのでしょうか。もちろん、これは調律師の人数をすでに把握している人を採用したがために、質問しているわけではありません。
企業が見極めたいポイントは、正確な答えがわからない問いに対し、就活生がどのように「正解」を導き出すのか、そのプロセスを知りたいのです。
「〇〇国の人口」など、多くの人が知っている知識のみを用いて、質問に対する回答を導き出すというのがフェルミ推定の攻略方法です。
フェルミ推定を出題する企業の傾向
入社試験や面接などで、フェルミ推定を出題する企業とはどのような企業なのでしょう。
フェルミ推定は、質問の回答へ行き着くプロセスを問うために実施されるものですが、ここでポイントになるのが「いかに論理的な思考をもって、解答までの計算式を組み立てることができるのか」という点です。
つまり、フェルミ推定を出題する企業は「論理的思考」をもった人材を採用したいと考えている会社といえます。具体的には、外資系のコンサルティングファームや商社、一部のベンチャー企業などで、フェルミ推定がよく出題されています。
3つのNGに注意
フェルミ推定をクリアするためには、気をつけなければならないNGポイントがあります。以下のような思考に陥ってしまわないよう、注意しましょう。
- フレームワークに囚われてしまう
- 面接官の意見を聞かない
- 細部にこだわるあまり、論点がずれてしまう
フェルミ推定の対策をしっかりしているからこそ、過去の例題を「フレームワーク化」してしまい、全ての問題をそれに当てはめようとしてしまうことです。柔軟な発想がしにくく、論理性にかける回答をしてしまうかもしれません。
自信をもって回答することは大切ですが、自身の考えにこだわるあまり、面接官の意見を聞き入れることができない人も、フェルミ推定で不合格となってしまう可能性が高いでしょう。
会社に勤めはじめれば、チームワークが不可欠となるため、他者の意見を取り入れることができない人は評価が下がってしまいます。
完璧な回答をしようとするあまり、質問の「主」となる部分から外れ、細部にこだわりすぎてしまうことも注意すべき点です。最も重要なこと(根幹)は何かを、見失わないようにしましょう。
フェルミ推定は、4ステップで考える
フェルミ推定が、とても高度な思考力を必要とする質問であるように感じてしまった人もいるかもしれません。しかし、フェルミ推定はフレームワークといかないまでも、ある程度パターンに沿った方法で考えていくことができます。本章では、フェルミ推定をクリアするために覚えておきたい4つのステップを紹介します。
1.前提を確認する
まずは「何を」答えればよいのか、質問の内容を自身の中で明確にします。つまり、数字として数えるべき対象をはっきりさせるということです。この部分が曖昧な状態のままでその先に進んでしまうと、論理性のある回答は導き出せません。
数えるべき対象というのは、例えば「東京都に住む40歳以上の女性」という質問の場合は以下のような条件をクリアしている人数のみです。
- 東京都に住んでいる
- 女性である
- 40歳以上である
実際は、これよりも複雑な問題が出題されるかもしれませんが、いずれにしても上記のような条件をどこまで明確にできるのかが、その後の計算式に説得力をもたせるうえでは重要です。
2.戦略を練る
次に、回答を出すまでの「戦略」を考えます。これは回答すべき対象の「単位」を明確にすることで見えてくるでしょう。計量のタイプを判断するとも言い換えることができ、多くの問題は以下3つのうちいずれかに該当します。
- ある時点における、グループごとの所有数量
- ある時点における、特定のボリュームに対する存在数量
- 一定期間に発生した経済変動量
グループとは、個人・世帯・法人・自治体・国といった、特定の名称で区分できるもの。存在数量とは、面積などをはじめとした「抽象的な広がり」をもつものです。そして経済変動量とは、市場規模や売上のことを指します。
3.論理的に枠組みを考える
ステップ3からは、いよいよ構造(フレーム)を組み立てていきます。ステップ1とステップ2の内容を踏まえて、最終的な数字に影響を与えるものが何であるのか考えていきましょう。
男性のみを対象としたものなのか、性別に関係のないものなのかによっても、考慮すべき要素は変わってきます。
例えば「日本における口紅の年間売上」を割り出す場合です。まずは「誰が使うのか」に注目します。おそらく女性がメインであり、さらに一定以上の年齢層となるでしょう。
また、どのような場所で購入するのかも考慮すべきです。学生であれば、ドラッグストアなどで購入できる低価格帯の口紅を購入する層が多いでしょうし、大人の女性であればデパートなどで売っているブランド物を購入する可能性もあるでしょう。
これらの可能性を挙げたうえで、対象となる日本人女性の数をベースにフレームを組み立ていきます。
4.具体的な数値を代入する
フレームが完成したら、いよいよ仕上げとなる「具体的な数値」を代入していく作業です。日本の人口は1.2億人です。うち半分を女性とし、さらに平均年齢が80歳であることから、同年齢の女性はそれぞれ75万人いると仮定します(6,000万人÷80)。
高校生以上からを対象とした場合、それぞれの層は以下の人数だと判断することが可能です。
- 高校生:3年×75万人=225万人
- 大学生〜20代:12年×75万人=900万人
- 30〜49歳:20年×75万人=1,500万人
- 50〜59歳:10年×75万人=750万人
- 60〜79歳:20年×75万人=1,500万人
上記の数字を元に「どこで買うのか」などの条件を考慮し、回答を導き出します。
フェルミ推定によって評価されること
企業はフェルミ推定を出題することで、就活生がどのような思考で回答を導き出すのかを見ようとしています。「思考」についてさらに掘り下げて説明すると、柔軟性や論理性があるか否かという点が評価対象となるでしょう。
また、思考力の他にプレゼン能力やコミュニケーション能力なども、フェルミ推定から評価されます。
柔軟な思考力
フェルミ推定は一般的に、面接官とのディスカッション形式で進められます。そのため、就活生は面接官の意見に応じて、臨機応変に考え方を変える必要があります。
また、面接官は柔軟な思考をもっているのかを判断するため、あえて就活生の回答では解決できない疑問を投げかけることがあります。よって、もし自身の考え方とは相容れない提案がされた場合でも、柔軟に意見を取り入れなければなりません。
論理立てた考え方
フェルミ推定は、事前の知識や面接官から与えられる情報を元に、回答していきます。そのとき、データを都合よく解釈してしまったり、飛躍して考えてしまったりすると「論理的思考」を評価されない可能性があるでしょう。
面接官に納得してもらうためには、データの裏付けが必要となります。それぞれの過程に説得力をもたせるため、事実のみから結果を判断する「論理性」をもたなければなりません。
プレゼン能力
自身の考えを最終的に面接官に解説します。つまり「なぜその回答へと辿り着いたのか」について説明するためのプレゼンが必要です。ここでは、就活生の「プレゼン能力」が評価の対象となります。
面接官を納得させるためには、ただ自身が出した結論を述べるだけでなく、その根拠を明確にしなければなりません。根拠が曖昧では、面接官に納得してもらうことは難しいでしょう。
コミュニケーション能力
前述の通り、フェルミ推定はディスカッション形式で進められることが多くあります。フェルミ推定は思考の論理性や柔軟性を判断すると同時に、面接官が就活生のコミュニケーション能力も評価の対象としているためです。
いくら問題を解決する能力に優れていても、判断意見に耳を傾けることができなかったり、円滑なコミュニケーションが取れなかったりする人材は、社内のチームワークを乱す可能性があるため合格することは難しいでしょう。
最低限、押さえておくべき情報
フェルミ推定はさまざまなデータを元に、回答を考えます。その際、スムーズに計算をするためには、ある程度の前提知識が必要となります。
もちろん、面接官からデータを伝えられるケースもありますが「社会人なら知っていて当然」とされるデータは押さえておきましょう。ここでは、日本国内と海外に関するデータを紹介します。
日本に関する情報
日本に関する情報で、事前に覚えておきたいデータは、以下のとおりです。
人口 |
1.2億人 |
平均寿命 |
84歳(男性:81歳、女性:87歳) |
面積 |
38万平方キロメートル |
世帯数 |
5,000万世帯 |
1世帯あたりの平均人数 |
2.5人 |
年間の出生数 |
約100万人 |
市町村の数 |
市:800、町:750、村:200 |
平均年収 |
430万円 |
1世帯あたりの平均年収 |
550万円 |
給与取得者 |
5,000万人 |
世界に関する情報
世界に関する情報で、事前に覚えておきたいデータは、以下を参考にしてください。
世界の人口 |
76億人 |
国の数 |
196ヵ国 |
アメリカのGDP |
21兆米ドル |
アメリカの人口 |
3.3億人 |
アメリカにある州の数 |
50 |
中国のGDP |
14兆米ドル |
中国の人口 |
14億人 |
地球の直径・円周・表面積 |
直径:1.2万キロ 円周:4万キロ 表面積:5.1億平方キロメートル |
フェルミ推定の問題例
フェルミ推定では、どのような問題が出題されるのでしょうか。フェルミ推定は、明確な数字による答えを求めて出題されるものではありません。大きな規模の問題に対して、どのように正解を導き出すのか、その「過程」が問われるものです。
フェルミ推定をクリアするためには、例題に慣れておく必要があります。本章ではフェルミ推定の例題を3つ紹介します。
全国の女性の人数
フェルミ推定の例題として、まず「全国に女性は何人いるのか」という問題を紹介します。フェルミ推定を用いて、全国の女性の数を算出する方法は次のとおりです。
まず基本情報として知っておきたいのが、日本の人口です。現在の日本の人口は、およそ1.2億人。そしてこの全体の人口数から、性別という切り口で女子の人数を算出する場合は「日本の人口×女性の割合」で求められます。女性の割合は人口の半分であると考え、「1.2億人×50%=6,000万人」と計算できます。
日本にある自動販売機の数
フェルミ推定の例題として次に紹介するのが、「日本にある自動販売機の数」です。いきなり問われても、明確な算出方法はありません。このような場合は、いくつかの条件(手がかり)が提示されるケースがほとんどです。
条件には、以下の3つが挙げられます。
- 120円の飲料が1本売れた場合のオーナーの取り分は24円
- 電気代は4,000円
- 電気代を経費で引いた場合、1カ月の儲けは1万円
上記の条件をもとに、フェルミ推定を用いて「日本の自動販売機の数」を算出する方法は次のとおりです。
自販機の数とはすなわち「1カ月に全国の自販機で売れる飲料の数÷1カ月にオーナーの自販機で売れる飲料の数」となります。
そして「1カ月にオーナーの自販機で売れる飲料の数」は「(儲け+電気代)÷24円=583本」です。
次に「1カ月に全国の自販機で売れる飲料の数」を求めます。これは「2対8の法則(パレートの法則)」を使って計算します。2対8の法則についての詳細は省きますが、その結果導き出されるのは9億3,750万本です。
最初の計算式に当てはめると「9億3750万本÷583本=約160万台」となります。
1日に渋谷駅を利用する人の数
フェルミ推定の例題として、最後に紹介するのは「1日に渋谷駅を利用する人の数」です。まず前提として、回答の利用者を「渋谷駅で電車に乗る人」と定義づけます。つまり、渋谷駅の乗り入れ線に乗る人、全てを含めるということです。そして、回答にたどり着くために算出しなければならないポイントには、以下の3つが挙げられます。
- 電車1本に乗る人数
- 1日の電車の本数
- 渋谷駅の線路数
3つそれぞれを以下の計算式に当てはめます。「電車1本に乗る人数×1日の電車の本数×線路数=1日に渋谷駅を利用する人数」で具体的な数字を算出できます。
フェルミ推定に慣れるための対策
フェルミ推定は、トレーニングを重ねることでよりスピーディーかつ論理的に回答を考えられるようになります。基本的に、フェルミ推定における質問の内容は、就活生にとって想定外のものとなるでしょう。
しかし、何を質問されるのか分からない場合でも、トレーニングができます。本章では、インプットとアウトプットに分けて解説します。
まずはインプット
まずはインプットをおこないます。先ほど紹介したデータを暗記しておくことや、書籍を読み込むことがインプットに繋がります。
おすすめの書籍としては『就職活動対策シリーズ ― フェルミ推定の教科書(著:高田泰介)』や『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート―「6パターン、5ステップ」でどんな難問もスラスラ解ける!(著:東大ケーススタディ研究会)』などが挙げられます。
次にアウトプット
必要な情報を取り込んだら、次にアウトプットをおこないましょう。フェルミ推定の対策としては、自身で実際に問題を解いてみる「アウトプット」が何よりも重要です。
参考書を使うのはもちろんのこと、インターネットなどでも多くの出題例を確認できます。いくつも例題を解いてみることで、考え方を定着させましょう。
コツを掴んでフェルミ推定をクリアしよう
フェルミ推定は、決して難解なものではありません。しっかりと対策さえしていれば、面接の際、スムーズに回答を導き出せるでしょう。さまざまな例題(過去問)を解き、そのコツを掴んでおくことが大切です。
また、ハレダスの「転職相談チョイス」では就職(転職)をテーマに、さまざまな情報を提供しています。ぜひお気軽にお問合せください。