子どものころ、漫画家になるのが夢だった。漫画家に憧れていた。
漫画好きの方なら誰もがそう思ったことがあるのではないでしょうか。
スマホ、SNSの普及により「漫画家」を取り巻くお仕事事情も変わってきました。
Web漫画を配信する「ジャンプ+」にて、読み切り掲載でデビューした漫画家・いろどりいろりさん。デビューまでの道のり、今の時代の漫画家事情などを聞きました。
●プロフィール
いろどりいろり
・20代女性
・2018年大阪デザイナー専門学校を卒業
【受賞歴】
●ジャンプルーキー2018年7月期:ブロンズルーキー賞
●ゲッサン新人賞2018年夏季:奨励賞
●京都国際漫画賞2018 :日本部門大賞
【掲載歴】
●月刊コミックガーデン2018年1月号にて「れんあいのしょ」読切掲載
●ジャンプ+(集英社)にて「虹彩に咲いた蟲」、「ストーキングドール」、「アイキャッチ」読切掲載
高校卒業まで漫画を描いたことがない、それでもなんとかなる
ー主に、ラブコメを描いているいろどりいろりさん。
現在は「ジャンプ+」でのweb漫画連載にむけて企画を作り、編集者とやりとりを繰り返しているところです。
その傍ら、漫画家のアシスタント、漫画の専門学校の非常勤講師などをしています。どのようなきっかけで、漫画家を目指すようになったのでしょうか。
小学生の時に友達にすすめられて漫画を読むようになりました。そこから漫画が大好きになり、漫画家になろうと決めたんです。
高校を卒業後、漫画の専門学校に通うことにしました。でも、実はそれまで全く漫画を描いたことはなかったんです。イラストなんかをちょこちょこ描く程度でした。
それでも、まぁ、なんとかなるだろうと思っていました。自分は漫画家になるんだと、変な自信だけはありましたね。
親にもあまり反対されなかったんです。もちろん心配はされましたけど、「卒業して2年で芽が出なかったら辞める」と言ってチャレンジさせてもらいました。
専門学校の在学中にそれなりに漫画を描けるようにはなりました。ただ、新人賞に応募してもかすりもしなかったんです。どんどん成果を出していく子もいる中で、自分は全くだったのでさすがに焦りましたね。
そのまま専門学校を卒業。半年ほどバイトをしながら漫画を描いていました。
どうしようかと思っていたところで、いくつか新人賞を取ることができたんです。そのまま読み切り掲載が決まってデビュー、担当の編集者さんがついて今に至るという感じです。
やはり初めての賞はすごく嬉しかったですね。また、親には2年と言っていたので、ようやく堂々とやっていけるなとも思いました。
新人賞のために何か特別なことをしたのかというと、そういうわけではありません。実は、賞を受賞したのは、専門学校生時代に描いた漫画なんです。
専門学校卒業後、在学中に描いた漫画をいろいろな賞に応募してみました。
そうしてわかったのが、受賞できるかどうかは運の要素も大きいということです。もちろん、賞によって評価されるポイントが違うというのもあります。自分と相性の良い賞を見つけるのも大事です。
ただ、評価する人がどんな漫画が好きか。他の応募者がどんな作品を送るのか、など。これらも結果に大きく影響のあることですが、自分ではどうにもできません。
たとえ全く同じ作品でも、送るタイミングによって受賞できたり、できなかったりということが、ありえるんです。
一度や二度の応募でめげず、たくさん応募することで可能性が広がりました。
イラストは実物の観察、ストーリーはインプットの量が大事
―専門学校の2年間で漫画のスキルを身につけたとのこと。今では、絵もとてもお上手で漫画家として高い技術を持たれているように思います。
漫画が上手くなるコツのようなものはあるのでしょうか。
一番のポイントは、頭の中の想像で絵を描かないということです。
服とか小物とか車とか、なんでもそうですが、実物や写真を見て描くということが大事です。
例えば、Tシャツを着ている人の写真を見て、シワの入り方とかを観察するんです。そうすることで、違和感のないリアルな絵になります。
すごく時間はかかりますけどね。一つひとつ観察して描いていくことで、自分の中で描けるものを増やしていく。結局はそれが上手くなる一番の近道だと思います。
絵は描いていればいずれ上手くなります。
プロとしてやっていくには、やはりストーリーが重要です。早い段階から漫画に限らず、たくさんの作品をインプットしておく必要があります。
「どうしようと悩んでいる時点で、アイデアが枯渇している」
担当の編集者さんの言葉です。たくさんインプットして、たくさんの引き出し、たくさんのアイデアを持っておくことが大事だと教えてもらいました。
賞を取ってデビューできたら終わり、ではないんですよね。次の掲載、連載に向けて常に新しいものを作り出していかなければなりません。
難しいところですが、同じような漫画ばかり描いていると、どんどん掲載からは遠ざかってしまいます。読者に飽きられますし、編集者さんからOKも出なくなります。
今までと違う新しいストーリーを考え続けられるかどうか。デビュー後に漫画家として活躍できるかどうかはそこにかかっていると思います。
アシスタントの仕事で感じた週刊連載の過酷さ
―週刊連載をしている漫画家のもとで、アシスタントもされているとのこと。アシスタントのお仕事はどのような感じなのでしょうか。
実際に先生の家に行くことはなくて、リモートワークでお仕事をしています。週に2~3回ぐらい、11時から20時まで働いています。
先生からの指示に従って、背景を描くというのが主な仕事です。
仕事中は常に先生とパソコンの画面を共有し、通話もつないだままで仕事をします。具体的な流れとしては、まず事前にメールなどで先生から資料や指示が送られてきます。実際に作業に移る前に口頭でも説明があって、そこから描いていくという感じです。
漫画はパソコン上で描いていきます。私もそうですが、今の漫画家さんはデジタルで描いている人がかなり増えてきました。
描き終わったら先生に声をかけて、画面共有でチェックしてもらいます。
もっとこうした方がいいよ。ということを、具体的なテクニックを見せながら教えてくれるのでとても勉強になります。
漫画は全てを白黒で表現しなければなりません。木を一本描くにしても、ちゃんとリアルな木に見えるようにするには表現方法を工夫する必要があります。
影をどう入れるか、どこにどういう線を入れるか。ちょっとしたことで絵の見え方はまったく違ってくるんです。先生のおかげで、アシスタントをするようになってから格段に絵のレベルが上がったと感じています。
そして、先生と働いて一番驚いたのが、週刊連載の大変さです。
「先生、昨日はどのぐらい寝たんですか?」と聞くと、締め切りが近い時はだいたい「2~3時間」という答えが返ってきます。寝る以外の時間はずっと漫画を描いているんです。
週刊連載は7日間で20ページ弱描かないといけない。話を考える時間も含めてですから、想像以上に大変な世界なんだなと、改めて実感させられました。
SNSの普及で学生のレベルは上がっている
―専門学校の先生としても週2日働いている、いろどりいろりさん。
自分が学生の頃と、今の学生とでは違うなと思う部分もたくさんあるそうです。
生徒さんのレベルが上がっているなと感じています。絵の上手い人がすごく増えていますね。
SNSの普及が大きな要因ではないでしょうか。Twitterなどで上手い人のイラストや漫画を気軽に見ることができます。それらをどんどん吸収しているなと感じます。
出版社の編集者もSNSで漫画家を探したりしますので、SNSがデビューの近道にもなっています。SNSの使い方が上手いかどうかも、デビューできるかどうかの大事なポイントの一つだと思います。
また、最近はネットで漫画やイラストのお仕事を簡単に受けることができるようになりました。漫画やイラストをお金にするのが簡単になったと思います。
漫画家になることへのハードルはどんどん下がっていますね。もちろん、漫画家になるための苦労や努力は変わらず必要ですけど、間口は確実に広がっているなと感じます。
web漫画の連載と単行本発売を目指し、魅力ある漫画を発信したい
―今後の目標などを教えてください。
一番は「ジャンプ+」で連載漫画を描くことです。
「ジャンプ+」はWeb漫画のアプリサイトですが、連載ができれば紙の単行本としての発売もされるんです。やっぱり自分の本が書店に並ぶのは嬉しいですよね。漫画家ですって、胸を張って言えるようになるかなと思っています。
また、Web 漫画は紙媒体と違い自由度が高いのも魅力です。ページ数の増減はもちろん、連載の頻度を毎週ではなく隔週にすることもできます。
アシスタント先の先生を見て思いましたが、週刊連載は本当に大変です。生活を犠牲にして漫画を描き続けなければなりません。
一方、隔週なら少し余裕をもってお仕事ができるのではないかと思っています。Web漫画の普及で漫画家の働き方も色々選べるようになってきているんです。
もちろん、隔週連載だと読者が待ってくれずに離れていくというリスクもあります。ムリのない隔週ペースで描いても、読者が待ってくれるぐらい魅力ある漫画を描けるようにならないといけません。
これからも読者に喜んでもらえる漫画作りを頑張っていきます。
いろどりいろりさんリンク集
Twitter:@irodori_irori
メール:irodori5irori@gmail.com