入社時に交わす契約書類に含まれる労働条件通知書や雇用契約書。見たり聞いたりしたことはあるけれど、具体的にどういったものなのかわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は雇用契約書と労働条件通知書の違いや、これらの書類について覚えておきたいことを紹介していきます。
雇用契約書と労働条件通知書の違い
雇用契約書と労働条件通知書には、双方の署名捺印が必要なもの、明示義務があるものなど、それぞれ特徴があります。ここでは、それぞれの違いについてお伝えしていきます。
雇用契約書とは
雇用契約書とは、雇用主(企業)と労働者が雇用契約を結ぶときに交わされる書類のこと。双方が雇用契約の内容を合意したことを示すものです。お互いの合意を示すもののため、企業と労働者双方の署名捺印が必須になります。
民法第623条では、「雇用について、労働者がその企業に労働力を提供し企業はそれに対する報酬を払うと約束すること」と定められています。しかし、その方法については定められていないので、口約束でも雇用契約は成立するのです。雇用契約書を発行する企業は多いのですが、発行は義務ではありません。
労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、雇用契約を結ぶ際に企業から労働者に対して開示する義務のある情報を記載した書類のことです。労働基準法第15条を根拠とし、労働時間や賃金、休日など、企業で働く上での労働条件が記されています。
発行理由は、労働条件を明確にすることで労働者が納得・安心して入社し、採用後も企業が故意に労働条件を変更できないようにするためです。企業側から提示されるものなので、双方の署名捺印は必要ありません。2019年4月より、労働者が希望した場合は労働条件通知書の電子化が可能になりましたが、書面でのやりとりが基本になっています。
労働条件通知書の未交付は違法
雇用契約書には発行義務がありませんが、労働条件通知書の交付は義務化されており、未公布の場合には違法になります。契約形態や期間、賃金の決定、支払い日など、労働者側に知らせなければならない事項も決まっているため、その決まりに沿って交付する必要があります。
労働条件通知書に明記されるべき事項について
労働条件通知書には、必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」と制度が備わっていなければ明記しなくてもよい「相対的明示事項」があります。
労働条件通知書の絶対的明示事項
絶対的明示事項の内容は
1.労働契約期間
2.業務内容
3.就業場所
4.始業・終業時間時刻、時間外労働に関する取り決め
5.休日休暇
6.賃金の決定・計算・支払方法、昇給
7.賃金の締め切り・支払い時期
8.退職に関する取り決め(解雇含む)です。
労働条件通知書の相対的明示事項
相対的明示事項は、企業独自で定めている制度がある場合、明記する必要のある事項です。以下がそれらの事項にあたります。
1.退職手当の定めが適用される労働者の範囲・決定・計算・支払い方法・時期
2.臨時に支払われる賃金・賞与・手当など
3.労働者が負担する作業用品や食費など
4.安全・衛生について
5.職業訓練について
6.災害補償ならびに業務外の傷病扶助
7.表彰ならびに制裁
8.休職
絶対的明示事項と違い、書類での明示ではなく口頭の説明でも問題ない事項です。
一部対象者への絶対的明示事項
契約社員や短期労働者など、契約期間に期限のある労働者の労働条件通知書には、上記絶対的明示事項と合わせて明示すべき事項があります。
契約社員の場合は「更新の有無と更新の基準」、短時間労働者の場合は、昇給・退職手当・賞与の有無、相談先などを明示しなければなりません。
派遣社員に関しても、労働者の派遣料金額や事業所における派遣料平均額のいずれかを明示する義務があります。
一部の企業では「労働条件通知書兼雇用契約書」として、労働条件通知書と雇用契約書を1枚の書類にまとめ、契約を締結する企業もあります。まとめることも問題はなく、労働条件を確認しながら効率的に契約を結べる方法だと言えるでしょう。
労働条件通知書について覚えておきたいこと
明示しなければ違法になってしまう労働条件通知書ですが、発行すべき対象者や明示事項など、合わせて覚えておきたいことがあります。
労働条件通知書を発行すべき対象者
すべての労働者に対して、労働条件の最低基準を定める労働基準法。
そのため、労働条件の明示義務も、正社員だけでなく、契約社員、派遣社員、アルバイト問わず、すべての労働者に適用されます。
労働条件の明示義務に関しては、労働者派遣法やパートタイム労働法などでも言及されており、もし雇用主(企業)が親族や友人などの場合であっても、雇用関係を締結する場合には、必ず労働条件通知書を発行しなければなりません。
労働条件通知書を受け取るタイミング
労働条件通知書交付のタイミングは、一般的には内定通知のタイミングが多いと言えます。しかし、企業によっては内定以降入社までの間に渡される場合や、入社当日に渡されることも。もし交付される気配がなく不安に思ったら、入社前に労働条件を確認したいと企業に伝えるのがおすすめです。
労働条件通知書の明示を怠れば罰則がある
労働条件通知書の交付は義務付けられているにもかかわらず、労働者に渡されていなかったり、口頭通知のみだったりと明示を怠った際には、罰則規定が設けられています。
労働基準法第120条によると、「30万円以下の罰金」が科せられる場合があるとのこと。そのため、企業側は必ず労働条件通知書を明示し、労働者側も明示がないようなら、トラブルを未然に防ぐためにも「労働条件通知書いただけますか?」と伝えるのがベターです。
まとめ
双方の雇用の意思を確認し、署名捺印で契約を締結させる雇用契約書と企業側から労働者に向けて労働条件を伝える労働条件通知書。労働条件通知書の交付は義務化されているので、交付や明示を怠った場合、違法になってしまいます。
雇用契約書に関しては、交付が義務化されていませんが「言った」「言わない」など、認識相違からくるトラブルにもなりかねませんので、企業側はできるだけ交付し、受け取った労働者側も大切に保管するようにしましょう。入社前から双方に不信感を抱かないためにも、誠意をもって合意に至るのが大切です。